研究課題/領域番号 |
22K08325
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
鈴木 佐和子 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (60400892)
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研究分担者 |
石渡 一樹 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (00889040)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェロトーシス / 細胞死 / グルタミン代謝 / 急性腎障害 / 臓器連関 |
研究実績の概要 |
Glutaminase 2 (GLS2)はグルタミン代謝のmaster regulatorであり、グルタミンをグルタミン酸に変換する細胞内代謝酵素である。我々はGls2 ノックアウトマウスでは高齢で肝癌を発症する一方で、高脂肪食を負荷すると糖尿病を発症することを明らかとしてきた。更にGLS2障害に伴う肝癌発症は、2012年に報告された細胞死フェロトーシスが関与することを報告した。 フェロトーシスは鉄および過酸化脂質依存的に誘導される細胞死であり、アポトーシスやネクローシスとは独立した細胞だ。最近では、癌だけでなく、腎臓や心臓における虚血再灌流障害や、神経変性疾患、血液疾患などの病態にも深く関与することが報告されている。しかしながら依然 その病態は不明な点が多く、有効な治療も開発されていないのが現状である。 本研究では、フェロトーシスが急性腎障害や臓器連関にも関与していること、腎臓Glutaminaseはアンモニア代謝に重要であるがGLS2の腎臓での役割は全く分かっていないことに着目し、GLS2を介した急性腎障害における役割を検討した。その結果、GLS2は虚血再灌流障害後の尿細管障害をフェロトーシスを介して悪化させることが明らかとなった。急性腎障害は、透析以外に有効な治療法がなく、致命的な経過をたどることもも多いため、本研究成果は、新たな病態の理解につながり、これまでとは異なった視点での治療法の開発にもつながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
急性腎障害におけるGLS2のフェロトーシスにおける役割解明は順調に行えている。 腎虚血再灌流障害モデルマウスを作成し、Gls2ノックアウトマウスはwild-typeマウスと比較検討した。Gls2ノックアウトマウスの腎虚血再灌流後の腎組織では尿細管障害スコアがwild-typeに比較して有意に低く尿細管障害が軽度であった。wild-typeマウスでは腎虚血再灌流後、電子顕微鏡でミトコンドリアの円形化やクリステの不明瞭化、核のクロマチン凝集像を認め、尿細管が病変の首座であることが確認された。更にwild-typeにおける尿細管障害はフェロトーシス阻害剤の投与で有意に減弱した。またGs2ノックアウトマウスの腎虚血再灌流後の腎組織ではフェロトーシスマーカーが有意に低下していることが示され、Gls2はフェロトーシスを介して尿細管障害を悪化させることが示された。更に、経時的な検討によりGls2を介したフェロトーシス誘導は、アポトーシスやネクローシスといった他細胞死誘導よりも早期で誘導されることが明らかとなった。 一方で、ようやく尿細管細胞の単離の系を確立することが出来たが想定よりも時間を要したため、機序解明の進捗ががやや遅れている状況であり、今後解析をすすめていく。
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今後の研究の推進方策 |
確立した初代尿細管細胞を単離培養する系を用いて、GLS2のフェロトーシス誘導における分子メカニズムを解明する。具体的には、Gls2ノックアウトマウス、wild-typeマウスの腎組織から尿細管を単離培養し、腎虚血再灌流障害を与える。更に各種グルタミン代謝経路阻害剤を使用して、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析、組織学的解析を用いて、GLS2のフェロトーシス誘導を介した尿細管障害に関与する重要鍵因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は尿細管の初代培養細胞の系の確立に時間を要した。遅れたが系の立ち上げには成功したため、今後分子病態解析をすすめていく。その解析に要する予算額を次年度に持ち越した。
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