研究実績の概要 |
糖尿病性腎症(Diabetic Nephopathy, DN)は、透析のみならず心血管合併症を引き起こし、生命予後を不良にするばかりか、これらの治療に要する医療費を増大させるため、社会的悪影響が大きい。糖尿病性腎症は、今もって糖尿病や高血圧への治療が中心であり、腎そのものへの有効な治療法は今もって存在しないことが、増え続ける一方の患者数と医療費増大に歯止めが利かない理由である。研究代表者は、長寿遺伝子でNAD 依存性脱アセチル化酵素であるSirt1の研究を進め、糖尿病性腎症で、近位尿細管Sirt1 が低下、Sirt1由来の液性因子のNMN(Nicotinamide Mononucleotide)がポドサイトに至れず、機能不全を起こす事を報告し、研究代表者は近位尿細管(Proximal Tubules, PT)のSirt1の糖尿病性腎症(Diabetic Nephropathy, DN)における意義を明らかにした(Nat Med2013,日本腎臓学会 大島賞等)。Sirt1低下に続き、NMN産生酵素Nampt(nicotinamide phosphoribosyltransferase)が低下し、NMNが減少する事を研究代表者は見出していたが、Nampt低下の近位尿細管での機能や発現制御機構については不明であり、これらを解明する研究を継続し、まず、その機能については論文報告(Cell Reports 2019)した。更に、NMN投与がDNの尿蛋白(JASN 2021)のみならずFSGSの尿蛋白をも抑止した(Sci Rep2022)。これらの研究過程で、近位尿細管のNMN,NAD代謝と糖新生が密接に関与している事を見出した。糖新生はATPを消費する代わりにNADを産生する。一方、解糖系はATPを産生する代わりにNADを消費する。これらの糖代謝とNADの関わりについて解析を継続している。
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