研究課題
IgA腎症は、わが国で最も頻度の高い慢性糸球体腎炎であり、腎への糖鎖異常IgA1沈着を特徴とする。また、病態進行の背景には、血中糖鎖異常IgA1の上昇に伴う免疫複合体の形成や多量体IgA1の存在が報告されている。これらの知見の集積により、ガラクトース欠損型糖鎖異常IgA1特異抗体が実用化となり、バイオマーカーへと発展した。更なる発展として、糖鎖異常IgA1の産生制御を担うシグナル伝達を探索し、臨床応用へ向けた新たな証拠の構築を目指している。糖鎖異常IgA1産生は、IL-4やIL-6などの刺激により誘発されることがIgA1産生細胞株を用いた検証により研究報告されている。しかし、糖鎖異常IgA1が生成されるB細胞系列の研究は十分になされていない。本研究では、ゲノムワイド関連解析(GWAS)より得られたIL-6関連サイトカイン・白血病阻止因子(leukemia inhibitory factor:LIF)に着想し、B細胞を中心とした細胞内シグナル伝達の全容を明らかにすることを目的とする。上気道感染後に尿所見増悪が本症に認められる事例から、口蓋扁桃由来IgA1産生細胞株を用いて刺激実験を行った。その結果、健常者由来細胞群と比較し、患者由来細胞群では、LIF-JAK2-STAT1を介して糖鎖異常IgA1が産生されることが分かった。本結果は、IgA腎症患者において糖鎖異常IgA1産生を担う責任細胞の一部が口蓋扁桃細胞に存在し、異常シグナルを呈する細胞集団が存在することが示された。また、昨年度の課題として設定された初代培養細胞を用いたフローサイトメトリー解析については、試料の細胞固定化・透過処理の条件、測定時間、培養条件、機器の適正化等の調整が完了し、安定した測定が可能となった。
2: おおむね順調に進展している
口蓋扁桃由来IgA1産生細胞株を用いたLIF刺激実験の結果をまとめ、「Kidney International Reports」誌に報告した。現在、末梢血由来IgA1産生細胞株を用いてB細胞受容体(BCR)シグナル伝達経路の解析を進めている。
生体内免疫反応において、BCRと異なる受容体(例えば、CD40、TLRなど)から細胞シグナルを受けている可能性が高く、これらの因子についても解析していく。ヒトへのトランスレーショナルを優先し、初代培養細胞への展開を検証している。
今年度中に行う実験予定が時間的に難しかったため、来年度に予算を計上した。基本的には概ね計画通りである。
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Kideny International Reports
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