研究課題
マウス表皮から遊離脂質を除き,得られた表皮残渣(結合型セラミド画分)をプロナーゼE処理することでタンパク質をアミノ酸レベルまで分解させる実験系の構築に成功した。LC-MS/MSを用いた包括的解析により,プロナーゼE処理産物中に含まれるセラミドとアミノ酸結合体を探索したところ,システイン結合型エステル化ω水酸化セラミドがマウス表皮中に存在することを見出した。システイン以外のアミノ酸が結合したセラミドは検出されず,従来型の結合型セラミドとして知られるグルタミン酸結合型ω水酸化セラミドも検出されなかったことから,これまで存在が知られていなかったシステイン結合型エステル化ω水酸化セラミドが主要な結合型セラミドであることが強く示唆される。結合型セラミドの前駆体であるアシルセラミドの産生酵素PNPLA1の魚鱗癬誘発ミスセンス変異体の細胞内局在を行ない,変異によるPNPLA1の局在異常が機能喪失の要因の一つであること,また変異ごとに局在異常への影響が異なることを明らかにした。常染色体潜性先天性魚鱗癬の患者から同定された脂肪酸ω水酸化酵素CYP4F22のナンセンス変異およびミスセンス変異によって産生されるCYP4F22変異体E79*,R397Cではω水酸化活性が消失していることを明らかにした。セラミドを構成する長鎖塩基の鎖長を規定するセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)複合体のサブユニットのうち,SPTLC3およびSPTSSBといったC20以上の長鎖塩基の産生に関わる因子の発現が表皮角化細胞の分化に伴って大きく増加することを見出した。酵母において,SPT複合体サブユニットTsc3およびSPT複合体の活性抑制因子Orm1/2には小胞体関連分解タンパク質Dfm1との遺伝的相互作用がみられ,これらの遺伝子欠損株ではセラミド量が変化していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,表皮サンプルからのアミノ酸結合型セラミドを調製する実験系,LC-MS/MSを用いた検出系を確立し,アミノ酸結合型セラミドの実体を明らかにすることができた。そのため,おおむね順調に進展しているとした。
システインとの結合体が検出されたが,他のアミノ酸とも結合している可能性も考えられるため,求核性側鎖をもつアミノ酸との結合性をエポキシエノンセラミド(結合型セラミド前駆体)の合成アナログを用いたアッセイにより調べる。また,システインとの結合に重要な官能基を明らかにするため,エポキシ基,エノン部分を改変したアナログを合成し,結合アッセイを行なう。野生型マウスの表皮を用いた解析において検出されたシステイン結合型エステル化ω水酸化セラミドが,目的としている分子であること(アーティファクトでないこと)を確定させるため,結合型セラミドが消失したマウスであるCyp4f39ノックアウトマウスの表皮を用いた解析を行ない,Cyp4f39ノックアウトマウスでシステイン結合型エステル化ω水酸化セラミドが消失していることを確認する。トリプシンまたはプロテイナーゼKを用いた表皮タンパク質を分解させることで,ペプチドと結合した状態のセラミドを調製する実験系を確立し,セラミドに結合したペプチド配列を調べることで,結合タンパク質の同定を行なう。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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https://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.html