研究課題/領域番号 |
22K08403
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
藤山 俊晴 浜松医科大学, 医学部附属病院, 講師 (60402301)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 薬疹 / 皮膚レジデントメモリーT細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、薬疹における皮膚レジデントメモリーT細胞(TRM)の関与を明らかにし、薬疹の病態解明および再発予防に役立てることを目的としている。古典的な薬疹の理解では、まず薬剤が全身に投与され、その薬剤に対して反応するT細胞が誘導され、そのT細胞がが皮膚に浸潤して皮膚の炎症を起こす。しかし、実臨床では、白血球がほとんど末梢血中に存在しない化学療法の直後などにも薬疹がみられることがあり、説明困難な事象がみられる。これが、皮膚レジデントメモリーT細胞の概念を導入することで、説明がつくようになる。更に、レジデントメモリーT細胞が薬疹の病態に関与することが明らかになれば、薬疹の治療や診療方法にも将来的に変化が生じる可能性がある。 そこで、薬疹における皮膚レジデントメモリーT細胞の関与を示すため、過去の薬疹の皮膚生検組織とコントロールの皮膚生検組織を用いて検討を行った。まず、様々な病型の薬疹の皮膚組織を用いて、皮膚レジデントメモリーT細胞の免疫組織学的検討を行った。皮膚レジデントメモリーT細胞の同定には、もっともよく用いられている細胞表面マーカーのCD69、CD103を採用し、免疫組織学的に同定が比較的容易なCD8陽性T細胞について行った。 その結果、一部の病型の薬疹では、他の病型の薬疹に比べて、より多くの皮膚レジデントメモリーT細胞が浸潤していることが確認された。更に、その分布はCD8+CD103+皮膚レジデントメモリーT細胞が通常よくみられる表皮真皮境界部のみならず、表皮の中層から上層にも及んでおり、細胞の活性化が想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の薬疹の皮膚生検組織とコントロールの皮膚生検組織を用いて検討を行った。まず、様々な病型の薬疹の皮膚組織を用いて、CD8陽性皮膚レジデントメモリーT細胞の免疫組織学的検討を行った。皮膚レジデントメモリーT細胞の同定には、CD69、CD103を採用した。免疫染色は、蛍光抗体を用いた多重染色を行い、染色標本はNanozoomer TM を用いて全体をデジタル画像に変換し、評価解析を行った。 その結果、薬疹のそれぞれの病型において、さまざまな程度に皮膚レジデントメモリーT細胞のマーカーを発現した細胞が浸潤していることが確認された。皮膚レジデントメモリーT細胞のマーカーを発現している細胞が、もともとその皮膚にいたレジデントメモリーT細胞なのか、皮膚の炎症に伴って浸潤してきたT細胞がレジデントメモリーT細胞のマーカーを発現したのかを区別するため、レジデントメモリーT細胞の代謝に関わるFABP4の共染色も行った。その結果、これらの細胞の多くはFABP4を発現しており、少なくともレジデントメモリーT細胞の代謝パターンを持っていたことが示され、これらの細胞を皮膚レジデントメモリーT細胞と定義した。更に、表皮内の皮膚レジデントメモリーT細胞の数は、薬疹の病型によってその数や分布がことなる傾向にあることが示された。特に、一部の薬疹では表皮の中層から上層にかけてもレジデントメモリーT細胞の浸潤がみられ、その活性化が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、薬疹における皮膚レジデントメモリーT細胞の浸潤が確認できた。 さらにそれらの活性化を疑う所見がみられた。その活性化を示すために、細胞の局在をさらに検討し、薬疹の病型ごとに検討し、どの薬疹に皮膚レジデントメモリーT細胞がより深くかかわっている可能性が高いかを検討する。ここで得られた結果をもとに追加の免疫染色を行い、局所でのレジデントメモリーT細胞の増殖の有無や、JAK-STAT系の活性化の有無を確認し、レジデントメモリーT細胞のの活性化を明確に示す。 ここまでは、検討が比較的容易な表皮の皮膚レジデントメモリーT細胞を検討してきたが、真皮のレジデントメモリーT細胞についても、活性化されている可能性があるため、それらの検討も行う。特に、真皮のレジデントメモリーT細胞は浸潤細胞との区別が難しいため、他のレジデントメモリーT細胞マーカーの検討なども並行して進める。 免疫組織学的検討に加えて、ex-vivoで培養増幅したT細胞を用いた検討も必要と考えている。これまでの検討で、培養細胞においても皮膚レジデントメモリーT細胞マーカーの発現が保たれていることから、その細胞のサイトカイン産生能やT細胞レセプターのレパートア解析あるいは、その多様性の検討を行う。 可能であれば、これらのレジデントメモリーT細胞の原因薬剤に対する反応性を検討することで、当初の最終目的である、皮膚レジデントメモリーT細胞が全身型の薬疹の発症に強くかかわることが示される。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会の現地参加が限られていたため交通費などが少なかった。次年度以降の学会参加等に充てる予定である。
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