我々はこれまでに、上皮間葉移行を阻害する薬剤をスクリーニングし、既存の化合物や市販薬の中から、LG283やエパルレスタットを候補薬として見出してきた。培養HUVEC細胞(ヒト臍帯静脈内細胞)にTGF-betaとTNF-αを添加すると、内皮細胞がやや間葉系細胞に似た形態に変化する。また、内皮細胞マーカーの発現が低下し、間葉系細胞マーカーの発現が亢進する。この実験系に、上記のLG283やエパルレスタットを添加すると、この変化が抑制された。すなわち、上皮間葉系移行を阻害する薬剤は、内皮間葉系移行を阻害する可能性がある。実際に、ブレオマインを連日皮内注射して皮膚硬化を誘導したマウスの皮膚では、血管は減少する一方で、皮膚の繊維化が生じる。このモデルにLG283やエパルレスタットを内服させたところ、皮膚病変部の繊維化は有意に軽減し、血管減少も有意に抑制された。また、内皮間葉系移行に重要な転写因子の発現をこれらの薬剤は抑制した。このことから、上皮間葉移行と内皮間葉移行には共通した部分が多いと考えられた。また、強皮症では内皮間葉移行が亢進しているために、血管減少と繊維化が同時に進行するものと考えられ、この過程を抑制する薬剤が治療薬として有用と思われた。
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