幹細胞は、微小環境(ニッチ)との相互作用によって組織恒常性の維持に寄与している。幹細胞とニッチの関係は加齢とともに変化し、組織の老化に関与すると考えられるが、その詳細は不明である。最近我々は、加齢に伴う免疫反応の変化が造血幹細胞の老化を亢進することを見出した。本研究では、加齢とともに形成される老化ニッチの本態解明と、それによる造血幹細胞の老化促進機構の解明を目的とする。この目的達成のために、老化ニッチ構成因子を特定し、老化ニッチ因子による造血幹細胞エイジングの進展メカニズムを明らかにする。さらに、高齢者において高頻度に生じるクローン性造血に関して、加齢に伴い老化ニッチが形成されるとともに造血幹細胞変容が起こる過程においてどのようにクローン性造血が進展するのかについて、モデルマウスを用いてメカニズムを明らかにする。 令和5年度は、造血幹細胞エイジングにおける老化ニッチの本態解明を行うために、前年度のIfng欠損マウス・Il17a欠損マウスの解析に加えて、IFNγとIL-17Aのダブル欠損マウスも作製し解析を行った。結果として、それぞれの単独欠損に比べて更なる表現型の改善を示すことはなかった。さらに、クローン性造血の進展メカニズムを解明するために加齢Tet2変異マウスを作製した。若齢タイプと加齢タイプの造血幹細胞を採取し、骨髄移植による機能解析を行った。その結果、両タイプの造血幹細胞では、クローン性造血において異なる役割があることが示唆された。今後、長期的な解析を行う。また、腸内細菌由来代謝物による造血幹細胞への影響を調べるためにGpr109a欠損マウスの解析を進めている。Gpr109aの欠損は、造血幹細胞の細胞周期に影響することを示唆するデータが得られた。今後さらなる解析を進める。本研究の推進により、造血老化の理解に寄与することが期待される。
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