研究課題
本研究は、がん細胞の治療抵抗性獲得を含む、がんのゲノム・エピゲノム異常を許容する本態解明を目的としている。多発性骨髄腫 (MM) では、その進展と共に1番染色体長腕 (1q) の増幅が起こり、難治性因子として注目されている。本研究では、1q21に位置する二本鎖RNA編集酵素 ADAR1に着目し、1q増幅とADAR1の関係、ADAR1発現上昇によるMMの病態形成に関する研究を進めている。公表データベースでの解析で、1qコピー数の増加と共に、ADAR1発現レベルの上昇を確認した。ADAR1は分子量110と150の2つのアイソフォームが存在し、健常人由来末梢血単核細胞と比較して、いずれのアイソフォームもMM患者検体を含むMM細胞で高発現していることを確認できた。ADAR1発現抑制MM細胞では、細胞死が誘導され、二本鎖RNAが蓄積することを確認した。さらに、MM細胞をSCIDマウスの脛骨内移植するMMマウスモデルにおいて、ADAR1発現抑制は腫瘍の生着/増殖を抑制した。以上の結果から、MMにおいてADAR1は治療標的となる可能性が示唆された。I型インターフェロン (IFN) はADAR1 p150の発現を上昇させることを、MM細胞で確認した。二本鎖RNAの代謝機構では、MDA5-MAVS経路とPKR活性化が重要であることが知られている。MM細胞において、I型IFN刺激は、IFN誘導遺伝子 (ISG) であるMDA5、MAVS、PKRの発現を高めることを確認した。IFN刺激下で、ADAR1を発現抑制すると、MM細胞に協調的に細胞傷害が誘導されることを見出した。また、これまでの研究者のエピゲノムに関する検討において、MM細胞でのHDAC1発現抑制では、ISG群の発現が高まることを同定し、ADAR1発現抑制MM細胞に対するクラスI HDAC阻害薬の作用増強効果を確認できた。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度において、1q増幅獲得MM細胞に対する新規治療標的として、ADAR1の有効性を見出しており、次年度以降でのADAR1が統治するMM細胞の生存増殖機構に関する検討へ繋げられる結果を得たため、研究全体として順調に進行していると判断した。また、ADAR1が関連するいくつかの関連制御機構も治療標的に関わることを確認できており、新規治療法の創出のための研究としても発展性を見出しており、この点も進捗の順調さに加味した。
ADAR1発現抑制によるMM細胞死は、MDA5-MAVS経路やPKRの活性化を介するアポトーシスの誘導と推測され、これらの経路の変化について解析を進める。既報を参考に、DNMT1発現抑制とDNMT1阻害薬5-aza-deoxycytidine (5-aza-CdR) ではMM細胞で二本鎖RNAの発現を高めることを予備検討で確認しており、DNMT1とADAR1を標的とする治療戦略についての検討も併せて進める。ADAR1のMM細胞の難治性因子としての役割を解析するために、ADAR1発現抑制によるRNA-seqを予定している。MDA5-MAVS経路の解析では、5-aza-CdRでの処理による二本鎖RNA発現亢進後に、MDA5で保持される二本鎖RNAを、RNA-結合タンパク質免疫沈降法により回収し、RNA-seqで解析する。PKR経路の解析では、ATF4-CHOP経路を中心とするERストレスによるアポトーシスを中心に評価する。HDAC1によるISG群の発現制御機構を明らかにするために、HDAC1が含まれるクロマチンリモデリング複合体NuRDの、ISG群へのプロモーター/エンハンサー領域への結合をChIP-seqで解析する。これまでのRNA-seqデータと、ChIP-seqによるNuRDが結合する遺伝子群を統合的に解析し、HDAC1阻害/発現抑制による、NuRDが制御する遺伝子およびそれ以外での遺伝子での発現変化の様態を明らかにする。ADAR1-Dicer複合体は、miRNAの産生を担っている。miRNA-seqを用いてMM細胞でのADAR1が制御するmiRNAを同定する。検討で必要な、DICER1発現抑制については、準備できている。
本研究に関する追加支援を受けて、ADAR1によるMM細胞の代謝変容についての解析を予定させていただくようになった。ADAR1発現抑制によるRNA-seq解析結果を切り口として、代謝変容に関する検討を進める予定としており、次年度に使用額が生じた。細胞外フラックスアナライザーを用いて、ADAR1発現抑制MM細胞、二本鎖RNA発現亢進あるいはHDAC1阻害下でのMM細胞での、代謝変容の実態解明を進める費用に使用する予定である。
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International Journal of Hematology
巻: - ページ: -
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