研究課題
近年、健常高齢者において、骨髄異形成症候群(MDS)や慢性骨髄増殖性腫瘍(MPN)と同様に、エピゲノム制御遺伝子変異などのドライバー変異を獲得した造血幹細胞が増殖優位性を獲得する、クローン性造血が注目されている。クローン性造血の頻度は加齢に伴い増加し、さらに付加的遺伝子変異の獲得によりMDSやMPN発症に至ると考えられるが、そのメカニズムは明白ではない。造血幹細胞が変異を獲得する確率は生涯大きく変わらないものと考えられ、加齢に伴い造血器腫瘍発症頻度が急増する理由として、異常幹細胞クローンの拡大を加齢ニッチが促進することが想定される。ヒト骨髄ニッチでは加齢とともに脂肪化が進行し、造血幹細胞の支持能が低下することが報告されており、このような状況下で異常造血幹細胞は増殖優位性を獲得することが想定されるが、骨髄ニッチの変化とMDSの病態進展の分子基盤の全容は明らかではない。本研究では骨髄ニッチが造血幹細胞クローン拡大に及ぼす影響を明らかにすることを目的としており、本年度は若齢マウスを用いた正常造血における骨髄ニッチの影響について解析を行った。その結果、骨髄ニッチの中でも間葉系幹細胞が骨髄抑制下における造血回復に重要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は骨髄ニッチが造血に及ぼす影響を明らかにするために、骨髄抑制下における造血回復について詳細に解析を行った。組織障害時にはHippo経路の下流にあるYAP/TAZの活性化が重要であることが報告されているが、この遺伝子を血管内皮細胞特異的に欠損するマウスでは貧血が遷延するもののYAP/TAZ活性化剤により造血回復が認められた。一方、間葉系細胞特異的なYAP/TAZ遺伝子欠損マウスではYAP/TAZ活性化剤による造血回復促進の影響は認められず、間葉系幹細胞がストレス下において造血幹細胞に強く影響を及ぼすことが明らかとなった。現在間葉系幹細胞により分泌されるサイトカインやケモカインおよび細胞外マトリクスに着目し、責任分子について詳細に解析を行っている。この解析は骨髄脂肪化というストレス下における間葉系幹細胞の造血幹細胞への影響理解につながるものと考え、以上のように評価した。
本研究では、ヒトで認められる加齢脂肪化骨髄における造血幹細胞クローンの拡大と加齢関連造血器腫瘍発症に至る過程を明らかにしていく。現在脂肪髄モデルマウスのコロニーを拡大中であり、今後はこのマウスの造血細胞をMDSモデル造血細胞に置換し、加齢に伴うニッチの特性変化とMDS発症との因果関係を明らかにする。また、脂肪髄モデルマウスより造血幹細胞および間葉系幹細胞を採取し、若齢コントロールマウスおよびMDS発症後のマウスにおける造血幹細胞・間葉系幹細胞とのトランスクリプトームおよびエピゲノムの状態を比較することで、骨髄ニッチが造血器腫瘍発症に至る分子機構を明らかにしていく。この解析により、加齢関連造血器腫瘍発症の促進に関わる加齢ニッチ由来因子の同定が可能と期待され、得られた知見をもとに、加齢ニッチ因子を抑え、加齢に伴う異常造血幹細胞クローンの拡大と加齢関連造血器腫瘍の発症を防ぐ方策を考案する。
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BBRC
巻: 619 ページ: 117-123
10.1016/j.bbrc.2022.06.050.