研究課題/領域番号 |
22K08457
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横溝 貴子 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (40636867)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 加齢 / 骨髄ニッチ |
研究実績の概要 |
近年、健常高齢者において、骨髄異形成症候群(MDS)や慢性骨髄増殖性腫瘍(MPN)と同様に、エピゲノム制御遺伝子変異などのドライバー変異を獲得した造血幹細胞が増殖優位性を獲得する、クローン性造血が注目されている。クローン性造血の頻度は加齢に伴い増加し、さらに付加的遺伝子変異の獲得によりMDSやMPN発症に至ると考えられるが、そのメカニズムは明白ではない。造血幹細胞が変異を獲得する確率は生涯大きく変わらないものと考えられ、加齢に伴い造血器腫瘍発症頻度が急増する理由として、異常幹細胞クローンの拡大を加齢ニッチが促進することが想定される。ヒト骨髄ニッチでは加齢とともに脂肪化が進行し、造血幹細胞の支持能が低下することが報告されており、このような状況下で異常造血幹細胞は増殖優位性を獲得することが想定されるが、骨髄ニッチの変化とMDSの病態進展の分子基盤の全容は明らかではない。本研究では骨髄ニッチが造血幹細胞クローン拡大に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。これまでに若齢マウスを用いた正常造血における骨髄ニッチの影響について解析を行った結果、骨髄ニッチの中でも間葉系幹細胞が骨髄抑制下における造血回復に重要であることを明らかとした。現在放射線照射の前処置を行わずにex vivoで培養した造血幹前駆細胞を移植することで、造血細胞を生着させる系を立ち上げた。この系を用い、若齢および老齢骨髄ニッチにおけるMDSの増殖環境の相違を明らかにする。また、脂肪髄モデルマウスへの移植造血幹細胞および間葉系幹細胞を採取し、若齢コントロールマウスおよびMDS発症後のマウスにおける造血幹細胞・間葉系幹細胞とのトランスクリプトームおよびエピゲノムの状態を比較することで、骨髄ニッチが造血器腫瘍発症に至る分子機構を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、高齢者に伴う骨髄ニッチの特性変化がMDS発症にどのように影響を及ぼすかを詳細に明らかにすることを目的として研究している。これまで造血細胞の移植には、放射線照射などの骨髄造血を抑制する骨髄破壊的前処置が必要とされてきたが,これらの前処置により、造血幹細胞の維持に必須な骨髄ニッチ本来の構造や機能が障害されてしまうという問題があった。そこで、本研究では放射線照射の前処置を行わずにex vivoで培養した造血幹前駆細胞を移植することで、造血細胞を生着させる系を立ち上げた。この系によりヒトのクローン性造血の初期段階である2%ほどのクローナリティを再現することが可能であり、現在、ヒトのクローン性造血で高頻度で検出されるTet2変異マウスの造血細胞を用い、前処置なしで移植を行い、若齢と高齢骨髄ニッチにおけるMDS発症過程の相違を詳細に解析する実験に着手している。よって上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
高齢者に伴う骨髄ニッチの特性変化がMDS発症にどのように影響を及ぼすかを詳細に明らかにするために、今後は前処置なしに造血細胞を移植する系を用いて若齢と高齢骨髄ニッチにおけるMDS発症過程の相違を詳細に解析する。また、脂肪髄モデルマウスへの移植造血幹細胞および間葉系幹細胞を採取し、若齢コントロールマウスおよびMDS発症後のマウスにおける造血幹細胞・間葉系幹細胞とのトランスクリプトームおよびエピゲノムの状態を比較することで、骨髄ニッチが造血器腫瘍発症に至る分子機構を明らかにしていく。この解析により、加齢関連造血器腫瘍発症の促進に関わる加齢ニッチ由来因子の同定が可能と期待され、得られた知見をもとに、加齢ニッチ因子を抑え、加齢に伴う異常造血幹細胞クローンの拡大と加齢関連造血器腫瘍の発症を防ぐ方策を考案する。
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