研究実績の概要 |
本年度は、我々が見出した新たなインテグリンβ3変異を有する遺伝性血小板減少症のノックイン(KI)マウスの解析を中心に行った。αIIbβ3変異からの恒常的なOutside-in signalにより、遺伝性巨大血小板減少症が生じることを我々は明らかにしてきた(Kashiwagi H, et al. Mol Genet Genomic Med. 2013 Jul;1(2):77-86, Akuta K, et al. J Thromb Haemost. 2020 Feb;18(2):497-509)。一方、我々は生下時より血小板減少を指摘され、家系内に同様の血小板減少を認める一家系を解析し、血小板サイズの増加およびαIIbβ3およびGPVIの発現低下を見出し、β3の細胞内領域に変異が存在することを明らかにした。しかし、患者血小板および変異β3の発現実験において、αIIbβ3の活性化は誘導されず、今回見出された変異は、従来報告されているαIIbβ3の恒常的活性化変異とは異なる新たなメカニズムにより、血小板産生および血小板機能異常が生じることが示唆された。そこで、我々は本変異のKIマウスの作成を試みた。マウスは正常に生まれ、明らかな出血傾向などは認めなった。KIマウスの血小板数は野生型マウスの50%以下に低下しており、また血小板サイズの増加が認められ、ヒトと同様に巨大血小板減少症を示した。更に、血小板膜蛋白の解析において、αIIbβ3の発現量の低下を認めたが、興味深いことにGPVIの発現量の低下も認められた。血小板機能検査においては、定常状態ではαIIbβ3の活性化は認めず、各種アゴニスト刺激による血小板凝集およびαIIbβ3活性化反応の低下が認められた。以上の結果から、本β3変異は、血小板機能および血小板産生に広範な影響を与えることが明らかとなってきた。
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