研究課題/領域番号 |
22K08487
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
西嶋 仁 東京医科大学, 医学部, 講師 (60425410)
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研究分担者 |
横須賀 忠 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (10359599)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | BiTE / TCRマイクロクラスター / effector T細胞 / 腫瘍殺傷能力 / サイトカイン産生 |
研究実績の概要 |
T細胞とがん細胞を架橋し、がん細胞を傷害する二重特異性T細胞誘導(Bispecific T-cell Engager: BiTE)抗体を用いたがん免疫療法は臨床現場で有用性を示しているが、T細胞がどのように活性化され腫瘍を殺すのかという詳細な作用機序について未だ不明な点がある。 本研究を遂行するため、抗hCD19/hCD3 BiTE抗体によるT細胞の活性化を1細胞1分子観察するシステムを確立した。がん抗原(hCD19)を提示できる平面脂質二重膜を作成し、ヒト末梢血から調整したT細胞を用いて、BiTE抗体によるT細胞の活性化をTCRマイクロクラスターの形成を指標として可視化した。TCRマイクロクラスターの形成の後、ICAM-1に囲まれたcSMACの形成を観察している。また、抗原-TCRを介したT細胞の活性化と同様に、BiTE抗体によって惹起されるT細胞の活性化も、CD80存在下では活性型補助刺激受容体CD28がBiTE作用時にはTCRと共局在し、IL-2産生を上昇させること、及び、PD-L1存在下では 抑制型補助刺激受容体PD-1がBiTE作用時にはTCRと共局在し、IL-2産生を抑制することが判明した。また、この抑制は抗PD-1抗体によって解除できることを確認した。 本研究で解決すべきテーマの一つである、BiTEを介した腫瘍殺傷機能におけるT細胞の分化状態について検討した。BiTEによるT細胞活性化はeffector T細胞には効果的であり、腫瘍殺傷能力とサイトカイン産生を高めたが、naive T細胞には限定的であった。しかし、naive T細胞もBiTEにより活性化され、effector化しうることが判明した。 現在、生体内におけるBiTEの動体とエフェクター細胞分化の場を検討するために、T細胞にhCD3とB細胞にhCD19を発現するマウスを作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
がん抗原(hCD19)を提示できる平面脂質二重膜を作成し、ヒト末梢血から調整したT細胞を用いて、BiTE抗体によるT細胞の活性化をTCRマイクロクラスターの形成を指標として可視化することは成功した。下流のシグナル分子の活性化を観察するために、ヒト末梢血から調整したT細胞に目的遺伝子に蛍光タグをつけて効率よく発現させる必要があるが、遺伝子導入効率が低かった。現在ウイルス作成を改良して試みている。 生体内におけるBiTEの動体とエフェクター細胞分化の場を検討するために、T細胞がヒトCD3eを発現するマウスを作成している。マウスのエキソン3を対応するヒトcDNAに置換したノックインマウスを作成したが、スプライシングに異常が出て、十分なヒトCD3eを発現するマウスの作成に至っていない。現在、ヒトcDNAをマウスの1st ATGより置換したマウスの作成を試みている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を遂行するための、BiTE抗体によるT細胞の活性化を1細胞1分子観察するシステムは確立し、解決すべき3つのテーマ、1) BiTE抗体によって惹起される抗腫瘍効果における補助受容体については、活性型(CD28シグナル)、不活性型(PD-1シグナル)の寄与について、TCRとの共局在とサイトカイン産生能の相関が確認できた。また、2) T細胞分化段階における BiTE抗体の作用機序についても、effector T細胞に効果的であり、naive T細胞には限定的であることを確認した。3) T 細胞の分化ス テージを含めたT細胞の活性化の場の理解については、現在CD3eをヒトに置き換えたマウスを作成中である。今後、それぞれの研究を以下のように遂行する。 1) BiTE抗体によって惹起される抗腫瘍効果に対する、活性型補助刺激受容体CD28シグナルと不活性型補助刺激受容体PD-1の寄与は確認した。今後、細胞障害活性の測定は、補助刺激受容体発現preB細胞由来NALM-6細胞を標的細胞とし、 補助刺激シグナルの有無の違いを検討する。 2) ヒト末梢血からT細胞を分離して、ナイーブT細胞とメモリーT細胞に対するBiTEの作用が異なることは確認した。現在CD4 T細胞もCD8 T細胞同様に活性化して細胞障害活性の示すデータを得ているので、今後、BiTEによって活性化したナイーブT細胞の動態についてさらに検討したい。また、抗原特異性を必要としないサイトカイン刺激をしたBystander T細胞についても検討を加える。 3) マウスに静注したBiTE抗体のin vivoにおける動態と正常B細胞の必要性を検討する。そのために現在マウスCD3eをヒトCD3eに、マウスCD19をヒトCD19に置換したマウスを作出を試みている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はマウスを用いた生体内での解析を始めるために、マウスのCD3とCD19をヒトCD3とCD19に置き換えたノックインマウスの作成を試みた。東京医科大で2度作成を試みたが、ノックアウトしか作出することができなかった。現在熊本大学に委託して、作出に取り組んでいる。in vitroの解析に用いる試薬として、さらにBiTE(ビーリンサイト点滴静注用)を発注したが、研究費の使用額が予定よりも少なかった。次年度以降はin vitroの 解析に加えて、マウス個体内での解析を進める予定であり、マウスの購入とゲノム編集の費用として次年度に使用する。
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