研究課題
本研究の目的は、申請者らが開発したヒト骨髄腫に見られる体細胞遺伝子変異を模した成熟B細胞モデルマウスを用いて、腫瘍局所の疲弊T細胞と制御性T細胞の解析を行い、腫瘍免疫逃避による腫瘍発症・進展との関連を明らかにすること、また疲弊T細胞の回復や制御性T細胞の抑制による抗腫瘍免疫応答の再活性化を介した治療薬の開発を行うことである。まず我々は、本モデルマウスの疲弊T細胞を解析し、骨髄・脾臓・リンパ節などの腫瘍局所にPD-1+Tim-3+(DP)あるいはPD-1+Tim-3-(SP)疲弊T細胞が増加していることを確認した。また腫瘍発症初期よりSP細胞は増加し、腫瘍量の増加に伴いDP細胞は増加する傾向を示した。機能解析により、SP細胞はサイトカイン産生能を維持している一方で、DP細胞は強い細胞傷害活性と高い増殖能を持つが、死にゆく細胞であることが分かった。遺伝子発現解析では、SP細胞は免疫応答に関する遺伝子発現が亢進し、DP細胞では細胞分裂や細胞死に関する遺伝子発現が亢進していた。DP細胞は既報のterminally exhausted T cellと類似した遺伝子発現プロファイルを示した。DP細胞はterminally exhausted T cellと類似した過剰な疲弊を来したT細胞であり、過度な疲弊への進行を抑制することが長期の腫瘍免疫維持に重要であると考えられた。我々はマウスT細胞をin vitroで刺激して疲弊を誘導する系を用いて、骨髄腫治療に用いられている免疫調整薬(IMiDs)lenalidomideやpomalidomideが、ToxやNr4a2といったT細胞の疲弊を誘導する転写因子の発現を抑制することを示した。
2: おおむね順調に進展している
モデルマウスの疲弊T細胞の機能解析、遺伝子解析が順調に進んでいる。これまでの成果を学会発表し、Cancer Immunology, Immunotherapy誌に投稿し、受理されたばかりである(in pressであり、論文一覧には未記載)。
モデルマウスの制御性T細胞についても更に解析を進め、また骨髄腫やB細胞リンパ腫での患者T細胞での解析を検討する。
すべて 2022
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)