研究課題/領域番号 |
22K08509
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
小船 雅義 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90336389)
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研究分担者 |
井山 諭 札幌医科大学, 医学部, 講師 (50398319)
池田 博 札幌医科大学, 医学部, 助教 (60570132)
後藤 亜香利 札幌医科大学, 医学部, 助教 (60722387)
堀口 拓人 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (70634674)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | PTH2R / 神経ペプチド / オートファジー / 急性骨髄性白血病 |
研究実績の概要 |
Gene Expression Omnibus (GEO)データセットGSE58831およびGSE24395を用いた解析で、患者由来の白血病細胞におけるPTH2Rの発現を解析した結果、CD34+急性骨髄性白血病細胞(AML)に高発現しており(GSE58831)、更にCD34+CD38-AML幹前駆細胞分画で高発現していることが明らかとなった。また、GSE58831を用いたAML患者の生存を統計解析した結果、Log-Rankテストで有意にPTH2R低発現群で予後良好であることが明らかとなった。さらにCox比例ハザードモデルで解析した結果、PTH2R低発現は遺伝子変異や染色体異常と独立した予後因子であることが明らかとなった。次に、MDS/AML細胞内のPTH2Rの発現の確認をウエスタンブロット法(WB)で行った。その結果、AML株Kasumi-1, U937, HL60およびKG-1、骨髄異形成症候群(MDS)由来の細胞株SKM-1におけるPTH2Rの発現は、線維芽細胞に比し高度であることが明らかとなった。PTH2Rのリガンドである神経ペプチドTIP39をPTH2R高発現AML細胞株に作用させた結果、細胞周期に変化は認められなかった。一方、TIP39を作用させてアネキシンV/7AADで解析した結果、早期アポトーシス細胞数が有意に低下することが明らかとなった。無血清のRPMI 4mMグルタミン+1%ペニシリン・ストレプトマイシン含有培地に、TIP39添加あるいは無添加で培養して、細胞の生存を解析したところ、TIP39添加群でAML細胞株が有意に生存することが明らかとなった。10%FBS添加RPMI 培地に、TIP39を添加して、0, 0.5, 1.0, 2.0, 4.0時間経過した後に、LC3の発現をWBで解析した結果、Kasumi-1, KG-1, HL60において、LC3-IIが一過性あるいは経時的な発現を認めた。一方、p62の発現には変化がみられず、TIP39単回投与ではオートリソゾーム形成まで至らないのかもしれないが、更なる検討が必要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、PTH2RがCD34+白血病細胞に高発現するという報告は1報だけある。本研究では更に、PTH2R低発現が独立した予後因子であることを見出し、CD34+CD38-AML幹細胞分画でも高発現することを明らかとした。さらに、これまで、CD34+白血病細胞におけるPTH2R高発現の意義が不明であったが、本研究でCD34+白血病細胞の生存促進に係わる可能性が示され、その機序としてオートファジーが関わる可能性が、初めて見いだされた。今後、この研究成果を確認するとともに、更に詳細に解析する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
オートファジー系の関与を確認するために、Chloroquine(オートファゴソームとリソソームの融合阻害)およびBafilomycin(オートリソソームのph低下を阻止することにより、細胞内物質の異化を阻害)する。さらに選択的マイトファジーについても検討する。また、治療への応用として、N末端の4-7アミノ酸残基をHTWHに置換した阻害ペプチドTIP39(HTWH-TIP39)を用い、培養上清に添加することで、TIP39-PTH2R系の阻害による細胞生存に与える効果を検討する。また、TIP39-PTH2R系のMDS/AML細胞における役割を解析する目的で、AML/MDS細胞株あるいは初代AML細胞培養系にTIP39を添加し、TIP39-PTH2R系における遺伝子発現の変化、タンパク質アレイを用いた解析を行い、パスウエイ解析などを用いてシグナル伝達経路を解析する。また、TIP39のoff target効果およびPTH-PTH2R系の効果を詳細に確認するために、PTH2R高発現MDS/AML細胞株にshRNAまたはCRISPR/Cas9を用いてPTH2Rをknock-down/knock-outする。その後、培養上清にTIP39を添加し、細胞生存効果および遺伝子発現の変化と比較解析する。また、骨髄微細環境におけるTIP39産生細胞の同定する目的で、骨髄生検で採取された患者サンプルを用いて、免疫染色で骨髄内のTIP39産生細胞を確認し、骨髄内での分布や他の骨髄微細環境を構成する細胞との関係を解析する。血管系、神経系や間葉系細胞との多重染色を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の研究予定では、事前の予備研究でTIP39は無血清培地といった飢餓状態での白血病細胞の生存に寄与すると予測していた。ところが、血清存在下においてもTIP39はオートファジーを誘導することで、白血病細胞の生存に寄与するといった研究成果が得られた。当初の予定では阻害剤やCrisper/CAS9ベクターといった高価な試薬を用いた研究計画を立てていたが、今年は血清存在下でのTIP39のAML細胞への効果の解析といった比較的安価であるが極めて重要な研究の推進となったため差額が生じた。次年度は、今年度の研究成果を生かし、阻害剤、Crisper/CAS9ベクター、アレイを用いた高度な研究を遂行することを予定している。
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