研究課題
2019年12月の中国武漢での感染に端を発するとされるSARS-CoV2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間に全世界に蔓延し多くの尊い命が失われた。死者の病理解剖結果から、死因の多くはサイトカインストームによる急性成人呼吸窮迫症候群(ARDS)や肺実質内の血管に血栓が詰まることによる呼吸不全であることが明らかとなった。我々はCOVID-19に合併する血栓症の発症機序を明らかにし、それに対する予防法や治療法を確立することを目的として研究を始めた。Gas6は血液凝固因子プロテインSと相同性の高いビタミンK依存的タンパクである。我々は造血細胞移植後においては活性化した単球やリンパ球がGas6を分泌し、これが血管内皮細胞を障害して血栓性疾患や移植片対宿主病の発症に関与していることを報告している。COVID-19においても患者血清中でGas6が上昇し血栓形成に寄与しているのではないかと考えた。当院と関連病院で診断・加療を行ったCOVID-19患者から採血を行いGas6や、血液凝固を活性化することが知られているHMGB1やヒストンを測定した。合計200名を超える患者を本試験に登録して、酸素吸入の必要性によりCOVID-19の重症度を判定し、臨床データやこれらの血清濃度と重症度との関連を解析した。その結果、予想に反してGas6は患者重症度に関らずその値は高値を示したが、ヒストンやHMGB1は患者重症度が上がるにつれて高い値を示した。そして、死亡患者では生存患者と比較してこれらの濃度は有意に高値を示した。ヒストンやHMGB1はCOVID-19の予後不良予測マーカーとなり得ると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
200名を超える患者を登録し、各種バイオマーカーの測定を終了することができた。
当初、COVID-19に合併する血栓症の誘因になると予想したGas6は、軽症患者でも上昇しており重症化には関与していないと考えられる。しかし興味深いことに、活性化した好中球や単球の核内から放出されるヒストンやHMGB1が重症患者で有意に上昇していることが明らかとなった。今後、さらに症例を集積してこれまでに得られた知見を追認していく。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Sci Signal.
巻: 15 ページ: eabd2533
10.1126/scisignal.abd2533
https://www.hemato.fmu.ac.jp/result/