研究課題/領域番号 |
22K08527
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉本 桂子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (20383292)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 全身性エリテマトーデス / B細胞分化 / 低分子化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は自己免疫疾患であり国の指定難病である全身性エリテマトーデス(SLE)の病態の根幹を担うB細胞を標的とした経口治療薬の開発を目指して、研究グループが所有する化合物BIK387を用いてその標的分子を探索することを目的としている。これまでの研究でBIK387はB細胞活性化因子であるBAFFの細胞への作用に対し阻害活性を有すること示されている。そこで本研究ではBIK387に作用点を明らかにし、BIK387の自己免疫疾患治療薬への開発の可能性を追究することと、新たな治療標的の探索を実施する。令和4年度は次の項目を検討した。1)BIK387を自己免疫疾患モデルマウス(MRL/lpr)へ経口投与し、化合物投与群と生食群(対照群)の脾臓細胞を用いてB細胞刺激を加え、細胞表面分子の解析による形質細胞への分化および細胞から産生された抗体(抗dsDNA抗体、IgG)量について比較解析した。2)ヒト末梢血単核球(PBMC)に対し、BIK387存在下でB細胞刺激を加え、細胞増殖および形質細胞分化、細胞からの抗体産生(IgG)に対するBIK387の影響について解析した。その結果次の知見を得ることに成功した。1)BIK387経口投与マウス脾臓ではB細胞および形質細胞の割合が減少した。2)BIK387経口投与マウス脾臓リンパ球に対してB細胞に特化した刺激を加えた場合、細胞からのIgG産生および自己抗体である抗dsDNA抗体産生が低下した。3)BIK387経口投与マウス脾臓リンパ球に対し、B細胞刺激を加えた場合、対照群と比較して形質細胞への分化が抑制された。4)BIK387はB細胞刺激を受けたヒトPBMCに対し、細胞増殖、IgG産生、形質細胞分化の抑制作用を示した。これらの知見によりBIK387は刺激を受けたB細胞の機能抑制作用を示し、その機序の一つとして形質細胞への分化抑制の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SLEは極めて複雑な炎症病態が全身に広がる疾患で、多彩な自己抗体の出現とそれらが関わる免疫複合体形成がその病態に重要な因子であることが報告されている。このような背景からB細胞の機能亢進はSLE病態形跡機序の一因となることが推測され、B細胞機能亢進を抑制する治療法が有効であると考えられる。BIK387は自己抗体産生モデルであるMRL/lprマウスへ投与(腹腔内、経口)することにより血清中の抗dsDNA抗体価上昇抑制作用を示し、その機序を解明することはBIK387そのもののSLE治療薬への開発の可能性を示すだけでなく、その工程で新たな治療標的分子同定への有力なツールにもなり得る。本年度はBIK387のB細胞機能抑制機構の詳細解明につながる重要な知見を得ることに成功した。具体的にはBIK387投与マウス脾臓リンパ球のB細胞および形質細胞の減少や刺激に対する抗体産生抑制など機能面での抑制とB細胞刺激を受けたヒトPBMCの増殖抑制や形質細胞への分化、および抗体産生能の抑制が明らかとなった。これらの知見を土台として、具体的なBIK387が関わるB細胞機能抑制の分子機構の検討が可能となった。よって今年度の本研究は予定通り順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、BIK387は、BAFFシグナル阻害作用とNavチャンネル阻害活性を併せ持つユニークな化合物であることがしめされている。研究代表者はこれまでの研究で、SLE患者末梢血B細胞におけるNav1.7発現が健常人と比較して有意に亢進していることを突き止めた。これらは形質細胞分化機構にBAFFシグナルのみならずNavチャンネルを含む複数の経路が関与している可能性を示唆している。これらの成果を元に次年度は次の計画を実施する。1)正常マウスおよび自己免疫疾患モデルマウスへBIK387を投与し(腹腔内および経口)、脾臓リンパ球を用いてB細胞分化誘導試験による分化誘導能の比較解析2)正常マウス脾臓リンパ球および健常人PBMCを用いたNav1.7チャンネル阻害剤によるB細胞分化抑制作用の検証3)BIK387と既存のNav1.7チャンネル阻害剤存在下で形質細胞を分化誘導した場合の細胞内での遺伝子発現およびリン酸化タンパク質の網羅的解析 これらの成果によりBIK387をツールとして用いて、形質細胞分化機構をin vitro およびin vivoの両面から探索することが可能となる。またBAFFシグナルとNavチャンネルなど複数の経路のクロストーク機構を解明する過程においてSLEの新規治療標的を見出すことが可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
イオンチャンネル阻害剤についてB細胞への影響に関する検証を完了した後に、リン酸化タンパク質の網羅的解析を実施するため、次年度にその費用を確保した。この措置により、より新規性の高い治療標的分子の探索を行うことが可能となる。
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