研究課題/領域番号 |
22K08575
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
樺島 重憲 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, アレルギーセンター, 医員 (00865058)
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研究分担者 |
村田 幸久 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40422365)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 食物蛋白誘発胃腸炎 / 尿中脂質 / 網羅解析 / 肥満細胞 / セロトニン |
研究実績の概要 |
食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)は、原因食物摂取後1-4時間で嘔吐や下痢といった消化管に限局した症状を示す食物アレルギー(FA)の一種で、その病態は明らかになっていない。本研究では、原因食物を摂取して症状が誘発された際の患者の尿中脂質を分析することによりFPIESの病態を解明することを目指している。尿には、肥満細胞や好酸球、好中球といった様々なエフェクター細胞の活性化を反映する脂質代謝物が含まれており、その網羅的解析により症状誘発の機序を明らかにできると期待される。2022年度には、肥満細胞がFPEISの症状誘発に関与する可能性が指摘されてきたことから、肥満細胞の活性化を反映する尿中脂質prostaglandin D2 metabolite(PGDM)に注目して検討を行った。 成育医療研究センターおよび浜松医科大学にて経口食物負荷試験を行った小児FPIES患者32例(年齢0-12歳)をリクルートし、このうち9例が陽性であった。陰性患者、陽性患者のいずれにおいても、食物負荷の前後で尿中PGDMレベルの上昇は確認されなかった。即時型FAの症例を対象として過去に我々が行った検討では、尿中PGDMの変化はサブクリニカルな微妙な反応も含めて肥満細胞の活性化を鋭敏に検出できることが確認されており、今回の結果はFPIESの症状誘発に肥満細胞が関与しないことを示唆するものであった。 最新の報告では、消化管のセロトニンがFPIESの症状誘発に重要な役割を果たすことが指摘されている。消化管においてセロトニンを放出する細胞としては、腸クロム親和性細胞および肥満細胞があり、今回の検討は、FPIESの症状誘発のカスケードを絞り込む上で有用な知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尿中脂質解析によりFPIESの病態を解明するため、国立成育医療研究センターおよび浜松医科大学において経口食物負荷試験を実施する患者をリクルートし、負荷試験の前後で尿サンプルを採取した。登録した症例は32例(年齢0-12歳)で、このうち自立排尿が困難でありオムツに吸収された尿を抽出して分析したのが24例、スピッツに尿を採取できたのが8例であった。原因食品で最も多かったのは卵黄(14例)で、その他に卵白(2例)、牛乳(2例)、魚(2例)などがあった。オムツで尿採取を行ったうち負荷試験の結果が陽性だったものは3例(12.5%)、スピッツで尿採取したうちで陽性だったものは6例(75%)であった。 採取した尿に含まれる脂質を、東京大学にて液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析装置を用いて分析した。ここでは、様々な免疫細胞の関与が推測される中でも、即時型FAの主たるエフェクター細胞であり、FPIESへの関与の可能性も指摘される肥満細胞に着目し、同細胞の活性化の指標である尿中PGDMの変動について主に調べた。その結果、症状が誘発された9例のうち、1例のみでPGDMの上昇が観測されたが、他の8例ではPGDMの上昇は見られなかった。このため、上昇した一例については非特異的な反応であったものと判断し、FPIESの症状誘発時に肥満細胞の活性化は見られないものと判断した。PGDM以外では、症状誘発とともに一部の症例でprostaglandin E metabolite(PGEM)の尿中レベルが上昇するのが観察された。PGEMは、好中球や単球など様々なエフェクター細胞の活性化に伴い産生される代謝物であり、詳細は不明ながらFPIESの症状誘発に伴う炎症反応を尿中脂質の変動により捉え得る可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の検討では、FPIESの症状誘発時に尿中PGDMのレベル上昇が観察されなかった。過去に行った検討で尿中PGDMは肥満細胞活性化の鋭敏なマーカーであることが示されており、FPIESの症状誘発に肥満細胞が関与していない可能性が示唆された。最新の報告では、FPIESの症状誘発に消化管セロトニンが関与している可能性が強く示唆されている。消化管においてセロトニンを産生する細胞には、腸クロム親和性細胞および肥満細胞があり、肥満細胞が関与しない可能性を示す結果は、症状誘発の機序を絞り込む上で有用な知見である。非特異的な炎症の存在を示すPGEMの上昇が見られたことと併せ、2023年度以降、他の尿中脂質の分析を進め、食物蛋白の抗原認識から、セロトニンが産生されて症状が誘発されるまでの経路の解明を行っていく。 またこれまでのデータを見ると、オムツを使って採取した乳幼児の尿中PGDMのレベルが、過去の研究データと比して低値であった。検体採取および分析方法が影響している可能性が考えられるが、FPIES患者の一特性である可能性も否定できず、症例数を増やすとともに、健常例との比較を行うなどして原因の究明を行っていく。さらに一部の患者では、負荷試験で陰性ながら、自宅で同量の原因食物を摂取すると症状が誘発されることがあり、一見陰性であった負荷試験時にサブクリニカルな反応が起きていないか、尿中脂質分析により精査を行っていく。 2年目となる2023年度には以上のような検討を行い、最終年度の2024年度にFPIESの病態を明らかにする知見を得るとともに、安全で確実な食物負荷試験の手法を創出することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地参加予定であった国内学会にオンラインで参加したため、旅費分が残額として残った。翌年度の学会参加費用の一部に充てる予定である。
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