研究課題
C型慢性肝疾患患者の95%以上が直接作用型抗ウイルス剤によりC型肝炎ウイルス(HCV)の持続的な血中陰性化(sustained virological response; SVR)を達成するようになった。そのような状況では必然的に高齢患者や病期進行患者を中心としたHCV排除(SVR)後の肝発癌が問題化する。また現在も世界的にC型肝炎は肝不全・肝癌の主要な原因である。我々は肝生検組織の電顕解析から炎症/線維化が改善されたSVR後も肝細胞内微細構造・オルガネラの異常が長期(10年以上)に残存、特徴的な異常所見がみられることを明らかにした。特に小胞体異常の頻度と程度はSVR後の肝発癌患者において関連性があった。これらの事実より我々はSVR後も肝細胞が何らかのストレスに曝されていることを示唆してきた (Aoyagi, et al. Liver Int. 2023)。SVR患者の肝生検組織に対して超高感度RT-PCR法による潜在性HCV(occult HCV)の存在を検証したところ、3名に肝組織内HCVを検出した。そのoccult HCVの全塩基配列を決定することに難渋しているが、現時点で断片的に決定された塩基配列に特徴的な変異や配列異常を認めていない。またこの3名は現時点で肝発癌や肝炎の再燃はない (投稿中)。次世代シーケンス解析による構造異常や肝発癌に関連するゲノムDNA/RNA分子やエピゲノムも解析中である。肝発癌症例では、HCV消失・炎症/線維化の改善にもかかわらず癌関連遺伝子の高発現状態で、それが何に起因するかは探索中である。現時点で肝細胞内微細構造・オルガネラ異常の関連遺伝子は同定できていない。以上の多角的検討よりSVR後における肝発癌の予測・予防や慢性感染症における「真の治癒」を再考したい。
2: おおむね順調に進展している
SVR後の肝組織電顕所見に関しては論文発表された。現在もSVR/非SVRの肝発癌/非発癌症例や他の慢性肝疾患症例(代謝機能障害関連脂肪肝疾患や自己免疫性肝炎など)からの肝生検組織・肝切除組織を、電顕用とゲノム解析用に集めている。継続的な電顕解析によりSVR後の電顕像も明らかになり、その臨床的および分子学的な意義を探索している。ゲノム解析は、新たにエピゲノム解析も着手、新規サンプルを中心に進めており、SVR後の発癌機序の解明に努めている。またSVR後の電顕解析は、幅広い年齢層を対象とした正常肝組織の電顕解析も進めることで、加齢変化による電顕所見も加味した検討を行っている。意外にもそのような研究はなされておらず、知見もまったくないのが現状である。SVR後の肝組織内に確認されたoccult HCVについて、全塩基配列も含めた解析を進めているが、肝組織内HCV RNAがきわめて微量であることやHCV RNA 3’末端がpoly-Uであることなどから、技術的な困難に直面している。部分的な結果は、現在準備している論文に盛り込む予定である。次世代シーケンス解析は、当該施設内で日常的に、また共同研究(AMED)では協同で他施設でも行ってきている。解析対象の集積やデータ解析には時間と労力を要するが、現在安定的に稼働している。以上より、研究全体を通して「おおむね順調に進展している」と判断した。
SVR後に肝組織内の炎症が消失、あるいは著明に改善し、かつ線維化が改善されても、肝細胞内微細構造・オルガネラの異常が長期に残存することが明確となった。この異常な電顕像の本体は何を意味するのかを解明している。それには長期経過も含めた、さらに詳細な臨床プロファイルと半定量化した電顕異常所見のより定量的な測定法の確立、および次世代シーケンス解析による構造異常や病態と関連するゲノムDNA/RNA分子の同定やエピゲノム解析を進めている。Occult HCVについては、全塩基配列を決定するとともに、陽性患者群における臨床的意義を明らかにする。現在までの解析結果では、少なくともSVR後肝発癌との関連性はみられていない。またoccult HCVの肝組織内における存在形態を免疫電顕も含めた解析により明らかにしていく。特にdouble membrane vesicleとの関連性をSVR後の病態も含めて解析中であり、論文作成中である。
本研究課題に関連した他の研究が順調に進んでいたため、想定より本研究費の使用(主に消耗品)が抑えられた。しかし、研究計画より最終年度は相当額を使用する予定であり、研究の進捗状況・研究費使用状況も含めて問題はない。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (14件) (うち査読あり 14件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
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