研究課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態形成にはインターロイキン6(IL-6)及び腫瘍壊死因子(TNF)を含む炎症性サイトカインが重要な役割を担っている。しかしながら、COVID-19の病態と炎症性サイトカインの直接的な関連性について、分子生物学的な観点から検討された報告は極めて少ない。そこで本研究の代表者は、COVID-19の病原ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞への感染の成立過程においてウイルス由来Sタンパクと宿主の受容体の結合が重要であることに着目した。まず、炎症環境がSARS-CoV-2の感染に与える影響を明らかにするため、炎症を有する滑膜組織(関節リウマチ由来)と非炎症滑膜組織(変形性関節症由来)における宿主受容体の発現パターンの比較を免疫組織化学を用いて行い、また、その結果を踏まえて滑膜線維芽細胞の培養実験を用いて解析を行った。その結果、宿主受容体であるニューロピリン2(NRP2)の発現が炎症環境下、特にTNF並びにIL-1βの存在下で著明に亢進することを確認することができた。アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)やNRP1といったすでに既報でウイルスとの関連が証明されている宿主受容体についても炎症環境下で発現の増加を認めるものの、その変動幅(炎症・非炎症状態での変動の大きさ)はNRP2でより大きかった。次に、ウイルスと細胞の結合を確認するため、細胞上に結合するリコンビナントSタンパクの定量を行った結果、炎症性サイトカインの存在下では細胞に結合するSタンパクの量が多いことが示された。さらに、SARS-CoV-2を細胞に感染させる実験では、ウイルスの感染及び増殖が炎症性サイトカインにより増強されることが明らかとなった。これらの研究結果はCOVID-19の病態解明に寄与すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、(1)NRP2の発現を惹起する複数の炎症性サイトカインの相互作用・協調作用について確認すること、(2)NRP2の主要転写因子の同定をルシフェラーゼアッセイを用いて解析する実験系を作成すること、(3)COVID-19の病変ウイルスであるSARS-CoV-2の線維芽細胞への感染実験を行い、炎症性サイトカインが存在する環境がウイルスの増殖に与える影響を検討すること、の3点について検討を行った。計画していた研究計画に沿って、実験結果の集積を着実に行っている。
今後の実験計画。(1)NRP2の発現を惹起する複数の炎症性サイトカインを同定した。NRP2の発現が炎症性サイトカインによる直接的な転写因子の活性化によって生じているかを検討するため、主要転写因子の同定をルシフェラーゼアッセイを用いて解析を行う。(2)COVID-19の病変ウイルスであるSARS-CoV-2の動態が、滑膜線維芽細胞以外の細胞・臓器でも同様に生じるか(炎症環境により増強されるか)を検討するため、肺や中枢神経などその他の臓器由来の培養細胞でも同様の検討を行う。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Viruses
巻: 15 ページ: 1498
10.3390/v15071498.
Modern Rheumatology Case Reports
巻: 8 ページ: 49-54
10.1093/mrcr/rxad054.
The Journal of Rheumatology
巻: 50 ページ: 1152-1158
10.3899/jrheum.2023-0040