研究課題
狂犬病は致死率ほぼ100%のウイルス性脳炎で、発症後の有効な治療法はない。最重症の咬傷曝露(WHOのカテゴリーIII)では、ワクチンと免疫グロブリン(RIG)による曝露後発症予防治療(PEP)が必須だが、しばしばRIGを使用できないことや頭頸部への曝露等の理由により、PEPが失敗=「死」するケースがある。本研究課題では、カテゴリーIII曝露に対するより確実な治療レジメの提案を目指し、RIGの代替として抗ウイルス薬を用いた咬傷曝露部位での感染ウイルス量の減衰・消失による、新たなPEPの立案と実証を感染マウスモデルで評価する。今年度は、in vivoイメージングによるウイルス感染動態の評価により、カテゴリーⅢを模した創傷感染モデルマウスへの経口、塗布によるファビピラビル投与+ワクチン投与の有効性を検討する。カテゴリーⅢの創傷モデルマウスにPEPとしてワクチン接種(接種0, 3, 7日後)のみ、あるいはワクチン接種に加えて接種0日目にHRIG(40IU/kg)、接種0から6日目にファビピラビルの胃ゾンデによる経口投与群(300mg/kg)、同期間ファビピラビル含10%ワセリン軟膏の局所塗布群での脊髄・脳内ウイルス侵入と生死について観察した。PEPなし群、あるいはワクチン接種のみ群ではそれぞれ4/4匹、1/6匹が発症・死亡であったが、HRIGあるいはファビピラビルの投与群ではすべてが生残した。興味深いことに、ファビピラビル塗布群においては、感染初期に脊髄で一時的なウイルス増殖像が観察されたものの、接種35日目にはそれらは完全に消失しており、ワクチンによる抗体誘導と相まって、ウイルスの脳内への侵入・増殖に至らないことが明らかとなった。ファビピラビルの局所塗布投与はHRIG同様、PEPにおける初期ウイルス増殖抑制のための薬剤として代替できる可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
狂犬病ウイルス曝露直後に、ファビピラビルの経口投与に加え軟膏剤塗布による局所でのウイルス増殖抑制効果も確認でき、マウスの生残も100%も確認できた。本研究当初の目的をまず達成することができ、国際学術誌(Kimitsuki K, et al. Antiviral Res. 2022 Dec. doi: 10.1016/j.antiviral.2022. 209. 105489. PMID: 36513207)への発表も行うことができたため。
今後は塗布療法の条件検討(単回か複数回か、軟膏濃度、創部の程度など)を行う。さらに狂犬病流行地での曝露後治療への臨床応用を見据えた研究の基礎データと知財の獲得にも努める。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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