研究課題
A群連鎖球菌は、劇症型と呼ばれる敗血症性ショックを引き起こす原因菌である。この劇症型に至る原因は、いまだに解明されていない。劇症型への発症機序を探るため病理組織を観察すると、この細菌が表皮と真皮の間に留まり移動しないこと、好中球などの免疫細胞が患部へ浸潤せず働いていないことが先行研究により明らかとなっている。好中球の患部への浸潤には、好中球膜上の糖鎖CD162と血管内皮細胞上の糖鎖結合タンパク質セレクチンとの接着と相互作用が必須である。我々はこの点に着目し、劇症型株の培養上清から好中球浸潤を抑制する糖タンパク質を新たに見出した。新たに見出した糖タンパク質の立体構造や機能は未知である。そこで本研究はA群連鎖球菌が分泌する糖タンパク質のセレクチン阻害による免疫回避機構を解明する。この研究を解析するために、まず糖タンパク質の糖鎖構造の全容を明らかにする。そのために、今年度は劇症型A群連鎖球菌培養上清に発現する糖タンパク質の精製及びその条件検討を実施した。劇症型として分離された臨床分離株1529及びゲノム株SF370株の培養上清より、硫安沈澱法、透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーを実施した。その結果、培養上清より陽イオン交換クロマトグラフィーで最終精製を行うことで、糖鎖結合タンパク質の分子量に相当したタンパク質が精製できることが確認できた。今後この精製方法によりタンパク質を量的に確保して糖タンパク質の糖鎖切断を実施しようと試みている。
2: おおむね順調に進展している
A群連鎖球菌の劇症型及びゲノム株の培養上清から、各種タンパク質精製法に則って糖タンパク質を精製した。この細菌の培養上清にはプロテアーゼが存在するために、通常の方法では、目的タンパク質やそれ以外のタンパク質が分解してしまい、回収精製が困難なことが多い。今回、糖タンパク質を精製したが、培養上清のpH調整を実施せず、できるだけ脱塩を行うことで、その分解が妨げられたと考えられた。目的タンパク質は、陽イオン交換カラムクロマトグラフィーで精製可能であった。タンパク質量としての収量が少ないため、アフィニティークロマトグラフィーにより分取したりして濃縮しながら目的サンプルを確保するように現在工夫を重ねている。
今回精製したタンパク質は糖が結合している。この目的タンパク質には標準品や抗体などが存在しないため、このタンパク質の糖鎖結合を確認しなくてはならない。そのために、糖結合タンパク質の糖鎖部分の部分分解、分解された部分への標識、その後、標識されたタンパク質の発色を行い、単一に糖タンパク質が精製された事を確認する。糖結合タンパク質の精製が確認後、糖鎖切断と遊離した糖鎖の精製、糖結合配列の解析を順次実施する予定である。
昨年度にタンパク質精製を実施した。この際、限外濾過装置の購入を予定したが、業者に在庫が無く、その製品の発注が出来ていません。また、コロナ禍によりその生産も間に合わず、購入が遅くなっています。この装置の生産はされているとの連絡を得ています。製品が出来上がりましたら、次年度にその装置を購入し、予算を使用する予定です。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
International Journal of Microbiology
巻: 2022 ページ: 1~8
10.1155/2022/4767765
Microbiology and Immunology
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