研究課題/領域番号 |
22K08618
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
福中 彩子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (60586402)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ZIP13 / 鉄代謝 / 脂肪分解 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体金属輸送体ZIP13の成熟脂肪細胞における役割を明らかにすることにより、肥満や糖尿病の理解に貢献することを目標としている。我々はこれまでに、成熟脂肪細胞特異的にZip13を欠損したマウス(Adipo-Zip13欠損マウス)の脂肪組織では脂肪分解が亢進することにより、脂質をより優先的に消費して、肥満に抵抗性を示すことを見出している。さらに、ZIP13結合タンパク質としてFth1(鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの構成因子)を同定し、Adipo-Zip13欠損マウスの脂肪組織ではFth1が増加しており、この発現を抑制することにより脂肪分解は抑制されたことから、「ZIP13-Fth1 axis(ZIP13の支配下にあるFth1による制御機構)」が脂肪分解に関与することを見出している。そこで本年度は「ZIP13がFth1を介してどのように脂肪分解を制御するか」について主に実験を行った。Adipo-Zip13欠損細胞では細胞質内の鉄量(特にFe2+の量)が増加し、ROSが増加することにより脂肪分解を亢進することを見出した。脂肪分解経路はPKAシグナル経路により制御されているため、今後この経路のどこにROSが影響を与えているか検討していく予定である。一方で、ZIP13の金属輸送能がFth1のタンパク質の安定性制御に影響を与えるかは明らかではないため、現在ZIP13の金属輸送能を評価する実験系を組み立てており、この実験系が整い次第、ZIP13の金属輸送能がFth1の安定性を制御し脂肪分解を制御するか検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Adipo-Zip13欠損細胞ではコントロール細胞に比べてFth1のタンパク質量が上昇することが判明していたが、様々な鉄代謝関連分子の発現変化を観察したところ、Adipo-Zip13欠損細胞では細胞質内の鉄量(特にFe2+の量)が増加することを見出した。次に、「なぜZIP13が存在するとFth1が分解されやすくなるのか」について解析を行った。申請者らはこれまでに、ZIP13はAAA ATPaseであるVCPと相互作用することを免疫沈降実験より見出しているため、ZIP13が足場となり、VCPによりFth1が分解されるのではないかと予測した。そこでFth1がどのような分解経路で分解されているのかを各種阻害剤を用いて検討した。その結果、ZIP13存在下では、Fth1タンパク質はVCP依存的に分解されていることが判明した。これらの検証により、ZIP13-Fth1-VCPの3者複合体でFe2+の量を制御して脂肪分解に関わることが示唆された。次に、ZIP13-Fth1-VCPの3者複合体によって生じたFe2+がどのように脂肪分解を抑制するのか、その分子機序を明らかにすることにした。これまでの報告から、Fe2+により生じるROSが脂肪分解を亢進することが報告されている((Rumbrger JM, Diabetes (2004))。Adipo-Zip13欠損細胞とコントロールの細胞に抗酸化剤であるNACを添加して脂肪分解を測定したところ、Adipo-Zip13欠損細胞で亢進した脂肪分解はNAC添加によりコントロール細胞と同程度まで抑制されることがわかった。つまりAdipo-Zip13欠損細胞ではFe2+により生じるROSが脂肪分解を亢進することが判明した。脂肪分解経路はPKAシグナル経路により制御されているため、この経路のどこにROSが影響を与えているか現在検討しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
以前から血清鉄や血清フェリチンの有無で脂肪分解が変化することは報告されており(Rumbrger JM, Diabetes (2004))、肥満病態と鉄代謝が深く関連するとの臨床的報告は多数存在するが(Garbielsen JS, JCI (2012)) 、その分子実態は不明な点が多い。我々の結果から、Adipo-Zip13欠損細胞では、ZIP13-Fth1-VCPの3者複合体によって生じた細胞質内の鉄量(特にFe2+の量)が増加し、ROSが増加することにより脂肪分解を亢進することを見出した。今後はPKAシグナル経路のどこにROSが影響を与えているか検討する必要がある。 我々の解析により、ZIP13は成熟脂肪細胞においてはスキャフォールドタンパク質的な役割を果たし、細胞内の鉄代謝動態を変化させて、脂肪分解を抑制する新規の機能を持つことが明らかとなった。一方で、ZIP13の金属輸送能がFth1のタンパク質の安定性制御に影響を与えるかは明らかではない。今後はZIP13の金属輸送能を評価する実験系(アフリカツメガエルのOocyteやプロテオリポソームを用いた輸送実験)を組み立てるとともに、ZIP13が金属を輸送することによりどのような構造変換が起こるか分子動力学的シミュレーションの手法などを組み合わせることにより検討していければと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度論文投稿を行う予定であったが、金属輸送実験を行ってから論文投稿を行った方が良いと判断し、論文投稿は次年度に繰越となったため。
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