研究課題
成体組織では、最終分化形質を備えた細胞の生成、および、特定の形態・構造の形成の過程が制御されている。副腎皮質は、形態的・機能的に分化した細胞層により構築・維持される。皮質細胞層は被膜に並行して同心円状に形成され、これらと直交して被膜下から同一系譜の細胞が中心方向へ配列する。近年、成体副腎皮質に関してマウスを用いた細胞系譜追跡実験により、被膜下に幹・前駆細胞が示された。しかし、幹・前駆細胞から機能分化した細胞層構築の制御機構、過形成や腫瘍化などに関する機構の解明は不十分である。本研究では、副腎皮質組織を被膜から最奥部へ形質が連続的に遷移する細胞集団と見なし、ヒトの副腎皮質ホルモン産生異常を正常細胞の形質遷移からの逸脱と捉える。本研究は、器官・組織の形成や構築、機能制御機構の解明を目指し、組織の修復・再生、過形成・腫瘍化などの病態の制御につながる。近年研究代表者らは、齧歯類の副腎皮質が均質な層構築を示すのに対して、ヒト成人では正常副腎皮質においても層構築が不均質で、アルドステロン産生細胞クラスター(APCC)の形成やホルモン過剰産生腺腫などの層構築からの逸脱が起きることを明らかにした。本課題では、APCC形成などの層構築の維持・逸脱の過程の詳細を明らかにするため、ヒト成人正常副腎皮質を用いて単一細胞遺伝子発現解析を行った。データ解析にはSeurat (version 4) を使用した。副腎皮質細胞を選択するため、被膜細胞、髄質細胞、血管内皮細胞、血液細胞等を除外した。次に皮質細胞を細胞層機能分化マーカー遺伝子の発現レベルにより球状層+APCC、束状層、網状層、その他に分類した。これらの細胞集団を構成する個々の細胞における遺伝子発現の差異を解析することにより、正常副腎皮質細胞の遷移過程が明らかになる。
3: やや遅れている
従来、副腎皮質の異なる細胞層間における遺伝子発現の差異は、形態に基づく球状層、束状層を別々に取得して、発現するmRNAの総体を比較することにより解析が行われた。同様に、正常部と腫瘍部の間でも別々に組織を取得して、遺伝子発現を比較することが行われた。これらの方法では、組織を細胞集団として取り出し解析するので、細胞集団が示す遺伝子発現の平均像が得られる。そのため少数の細胞が示す特徴的な遺伝子発現を検出することは困難であった。本課題では皮質全体から細胞を調製して単一細胞ごとに遺伝子発現プロファイルを取得し、細胞ごとのデータを解析することにより、既知の細胞層とAPCCの特徴を示す細胞のカテゴライズまでを実行できた。各細胞層やAPCCを構成する単一細胞が示す発現プロファイルに関する詳細な解析を行い、形質の遷移や転換を特徴づける遺伝子発現変化の検出を進める必要がある。
単一細胞の遺伝子発現解析は、少数の特徴的な細胞の検出を可能にする解析手法であることから、副腎皮質細胞の形質遷移過程を示す過渡的な細胞の同定、幹・前駆細胞の球状層細胞への分化、脱分化を経る層形質の転換、APCCの消長や腺腫への転換・成長の過程を示す細胞の同定を進める。試料調製に関しては、組織におけるmRNAの総体を保持した細胞の調製を目指す。ヒトにおいては正常細胞層の遷移過程・APCCの消長・アルドステロン産生腺腫への進展を解析対象とする。齧歯類においては、低食塩による球状層の増殖とアルドステロン産生亢進、副腎皮質刺激ホルモン投与による束状層の増殖とグルココルチコイド産生亢進の過程を解析対象とする。米国NCBI遺伝子発現情報データベース等からヒト・齧歯類副腎皮質の単一細胞遺伝子発現データを取得して解析に利用する。
試料の調製、ライブラリ作製、塩基配列解析などに関しては、適する実験条件を検討する必要性や代替法の利用が当初想定されたが、困難を伴わずに解析を進めることができた。その結果、物品費等の使用額が減少した。次年度には、ヒト正常副腎組織と副腎腫瘍を含む組織を用い、また実験動物において食餌条件やホルモン投与など副腎皮質の層構築に影響を及ぼす処理を行い解析するための物品費を支出する。最近報告された新規の副腎皮質層機能因子に対する特異的抗体の作製を予定する。
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