研究目的は生体における腎糖新生の役割を解明することである。腎糖新生は絶食中に全身の糖産生に対する割合が増加することがしられている。そこで、主要な糖新生酵素であるPEPCKを誘導性に腎臓選択的に欠損させたマウス(以下腎-PEPCK KOマウス)を作製し絶食中における表現型の解析を行った。 腎-PEPCK KOマウスを24時間絶食させたところ、対照マウスに比べて血糖値には変化を認めなかったが、腎臓のグルコース含有量は低下していた。そこで、PEPCKを介する糖新生の基質である乳酸を負荷したところ、腎-PEPCK KOマウスでは対照マウスに比べて有意に高い血糖値を呈した。この結果により、他の主要な糖新生臓器である肝臓の代償により、腎-PEPCK KOマウスの血糖値が維持されているこが示唆された。 PEPCKは、ミトコンドリアTCAサイクル内の代謝物の細胞質への移動を促進させることにより、グルコース産生を増加させることがしられている。そこで、腎-PEPCK KOマウスの腎臓内のTCAサイクルの中間代謝物を測定したところ、対照マウスに比べてそれらが著しく上昇していることがわかり、腎におけるTCAサイクルの流れが停滞していることが示唆された。加えて腎臓ATP含有量が腎-PEPCK KOマウスで低下していた。これらの結果は、腎臓のPEPCKを介した糖新生が全身の糖代謝のみならず、腎臓内TCAサイクルの機能に関わることを示している。 更に、対照マウスでは絶食に伴い尿量や尿中ナトリウムが低下したが、腎-PEPCK KOマウスでは逆に増加し、脱水をきたしていることがわかった。このことは、腎糖新生が絶食中の腎の代謝を制御して水分保持に関与していることを示唆している。 本研究は、これまでの結果を発展させることにより、腎糖新生の生体における意義のさらなる解明につながることが期待できる。
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