フェロトーシスが引き起こす細胞内の脂質状態の変化を捉えるために、フェロトーシス感受性細胞であるHT1080細胞株(ヒト繊維肉腫由来)を用いてプロテオミクスを行った。HT1080細胞株にエラスチンによるフェロトーシスを誘導したものと、コントロールとしてDMSOを添加したものをペレットとして回収し、プロテオミクス解析を行った。まず、プロテオミクスの結果から、β酸化に関連するタンパク群の発現に顕著な変化が認められた。そして、さらに脂質代謝に関連する分子を検索していくと、RXRAの発現低下を認めた。共同研究施設における先行研究でフェロトーシスとPPARαとの関連が認められているが、その制御機構の一つとして、脂質関連分子であるPPARとRXRAの相互作用の示唆する重要な知見だと考えられた。一方で、フェロトーシスの制御という観点からフェロトーシスに関わる遺伝子としてfsp1(ferroptosis suppressor protein-1)の発現解析を行った。その結果、フェロトーシス誘導を抑制するE3ユビキチンリガーゼ阻害薬(MEL23)投与下においてプロテオミクス解析を行い、発現が増強する転写因子としてMSANTD3(Myb/SANT DNA binding domain containing 3)を発見した。MSANTD3のノックダウンではフェロトーシス促進とfsp1の発現低下を認め、強制発現ではフェロトーシス抑制とfsp1の発現増加を認めた。すなわち、転写因子MSANTD3がfsp1の発現を転写調節することで、フェロトーシスという現象を制御している可能性が見出された。
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