研究課題
APA組織において、ステロイド合成酵素の免疫染色の結果から腫瘍内不均一性が予想されている。APAの発症メカニズムを理解する上で、腫瘍内の不均一性の評価は重要と考えられるため、single-nucleus RNA-seq解析(snRNA-seq)を施行した。昨年度までの予備検討からさらに症例を追加し、非機能性副腎腫瘍(NFA)2症例、KCNJ5変異を有するAPA3症例の計5症例の凍結腫瘍検体より核抽出を行い、TAS-Seq法を用いて単一核を対象にした網羅的遺伝子発現解析を実施した。NFA:7319個、APA:13476個の計20795個の核が解析でき、核集団は合計13個のクラスターに分かれた。NFAとAPAで共通する副腎皮質由来のクラスターが同定され、それらはCYP11B2の発現量が低くアルドステロン合成能の低い細胞集団であることが推定された。擬似時系列解析では、CYP11B2の発現上昇を反映した分化経路が推定された。核集団の分化度が上昇するにあたり、アルドステロン合成の上流で機能するHSD3B2やCYP21A2といったステロイド合成酵素遺伝子の発現量上昇も伴っていることが特徴だった。ステロイド合成酵素以外では、副腎皮質細胞の増殖に関与するWNTシグナル経路のCTNNB1遺伝子の発現上昇が確かめられたことが特徴であった。さらに擬似時系列解析ではAPA腫瘍内に想定される分化過程が2方向(fate1, fate2)に分岐することが分かり、fate 1ではリボソームや神経変性疾患に関連のある遺伝子の発現上昇が、fate2では解糖系に関連する遺伝子の発現上昇が特徴的であった。snRNA-seqにより、APAにおける腫瘍内不均一性を評価しえた。APAの腫瘍内不均一性は、腫瘍細胞がアルドステロン合成能を獲得していく分化経路を反映している可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
2022年度より開始していた予備検討を元に、これまで例のないアルドステロン産生腺腫を対象にしたシングル核解析を進めることが出来、豊富なデータを得ることが出来た。
検体の取得が困難な、ホルモン異常のない患者から得られる正常副腎皮質組織を対象としたシングル核解析に着手する。WNT経路に着目しながら、副腎腺腫組織と正常副腎組織を隔てる分子生物学的な違いについて解析を行う。
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