研究課題
糖質コルチコイド(GC)は強力な抗炎症作用、免疫抑制作用を持ち、生体におけるストレス応答を担っている。GC分泌を調節している副腎皮質刺激ホルモン(Adrenocorticotropic hormone: ACTH)は下垂体から分泌され、GCによるネガティブフィードバック機構を呈し、その過剰分泌を抑制する機構として作用している。近年、ストレス刺激により脳内のm6A調節がGCにより異常を呈する事が示された。m6Aは転写後修飾として最も豊富に存在するRNA修飾である。生理学的にも発生や概日リズムに重要な役割を担っており、m6Aの調節異常は多彩な病態と関わっている事が明らかとなってきた。m6A修飾の調整酵素としてWriter(メチル化酵素)、Eraser(脱メチル化酵素)が存在する。本研究ではまずこれらの調節酵素によるACTH分泌調節について検討を行った。ACTH分泌調節を検討するモデルとしてマウス由来ACTH分泌細胞株を用いてGC投与を行ったところ、ACTH前駆体であるproopiomelanocortin (POMC)の発現がm6A調節酵素に与える影響について検討したところMettl3, FTOの抑制を認めた。次にAtT20細胞においてFTOノックダウンを行ったところ、POMCは40%低下した。さらにこれがm6Aを介しているかを明らかにするためFTOにおけるm6A脱メチル化活性の特異的阻害剤であるFB23-2を用いて検討を行ったところ、同様にPOMC発現を低下させた。次にメチル化酵素であるMettl3について同様の検討を行ったところ、POMC発現はやはり50%の低下を認めた。これらを含め、現在Mettl3とFTOがPOMCのmRNAに対して、それぞれ異なった転写因子のm6A調節を介してPOMC発現を調整していると考え、検討を重ねている。
3: やや遅れている
T細胞における機能を解析する研究を目指しているが、その全段階として、内因性グルココルチコイドの分泌を規定するACTH合成分泌にこのm6Aの調整分子であるFTO, Mettl3が関わっている事が明らかになり、この点を追求する方向に現在研究が進んでいるため、当初の予定を少し変更を余儀なくされている事が原因と考えております。
今後、ACTH分泌をm6A修飾分子がどのようにACTH分泌を制御しているのかを明らかにするため、より分子的なメカニズムを明らかにしてまいります。具体的にはFTOノックダウン細胞においてm6A修飾が増えた際にそのreader分子(YTHファミリー、IGF2BPファミリー、eIF3など)を明らかにし、どのようにFTOがACTHの転写、翻訳、分泌過程を調整しているかを明らかにします。また、FTOはmRNAのメチル化を介して調節するため、その標的となるmRNAを同定し、新たなACTH調節分子機構としての確立を目指します。また、これが急性ストレス、慢性ストレス、病態としてのクッシング病といったどのレベルでの病態に関連しているかを明らかにする予定です。次にFTOノックアウトマウスで同様の機構が存在するかを検証します。
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J Endocr Soc.
巻: 7 ページ: bvad002
10.1210/jendso/bvad002.