研究実績の概要 |
インスリン受容体はインスリンと結合し細胞内インスリンシグナルを惹起することにより様々な代謝反応の起点となる。研究代表者はインスリン受容体の細胞外ドメインが切断され可溶性インスリン受容体(soluble Insulin Receptor; sIR)として血中に存在し、糖尿病患者では血中sIR値が血糖値と有意に相関して増減すること(Diabetes, 2007)、また妊婦においては血中エストロゲン値と相関し妊娠経過に従い血中sIR値が上昇することも見出した(BMJ ODRC, 2021)。一方で、本事象を再現するin vitro系を構築することにより(BBRC, 2014)、インスリン受容体が切断される分子機構を明らかにするとともにヒトにおいてインスリン受容体の切断がインスリン抵抗性の要因となりうることを示してきた(Diabetologia, 2016)。これらにより「インスリン受容体2段階切断によるインスリン抵抗性」という新たな病態モデルを構築するに至った。 本研究では、インスリン受容体切断機構が糖尿病と関連するインスリン抵抗性疾患群を横断する普遍的な概念であることを証明することを目的とする。本年度は、臨床医学的に指摘されている糖尿病やインスリン抵抗性とアルツハイマー型認知症の関連について研究を行った。神経細胞を用いたin vitro研究のため初代培養神経細胞や神経細胞株(HCN-2)を用いてインスリン受容体切断の評価を行った。さらにこれまで肝細胞で明らかにしてきたインスリン受容体切断を担う分子機構について神経細胞についても検証を開始している。
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