研究課題
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: non-alcoholic steatohepatitis)では肝細胞死の増加が特徴であり、慢性炎症や線維化の起点となると考えられる。申請者らは死細胞をマクロファージや線維芽細胞が取り囲み、貪食処理する病理学的構造としてCLS(crown-like structure)を報告した。CLS構成マクロファージは疾患特異的なマクロファージ亜集団であると考えられるが、これまでにコレステロール蓄積とリソソームストレス増強を示唆するデータを得ている。コレステロール負荷によるマクロファージの機能変容とそのメカニズムを明らかにするため、in vitro実験系の確立に取り組んだ。ヒト単球細胞株であるTHP-1から分化誘導したマクロファージとマウス細胞株であるRAW264マクロファージ、初代培養として腹腔内マクロファージと骨髄誘導性マクロファージ(BMDM)を用いてコレステロール結晶添加実験を行ったRAW264マクロファージではリソソーム関連タンパクと炎症・線維化促進因子の発現が増加したが、その他のマクロファージでは反応が認められなかった。リソソーム生合成を制御する転写因子TFE3(transcription factor E3)の免疫染色では、RAW264・BMDMともに核内移行が認められたが、リソソーム構成タンパクであるLAMP1の免疫染色においてBMDMではリソソーム量の減少が認められた。以上から、マクロファージの種類によってリソソームストレスに対する応答性が大きく異なることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
NASH病態形成の核となるCLSを構成するマクロファージはCD11c陽性であり、他の散在マクロファージとは異なる特徴的な遺伝子発現プロファイルを有する。in vitroにおいてこの特徴を再現する実験系の確立に成功しており、今度、転写制御メカニズムの解明や線維化の実行細胞である線維芽細胞に対する作用など、疾患特異的活性化の病態生理的意義を明らかにする準備が十分整っている。
マクロファージに対するコレステロール過負荷とリソソームストレス増強がどのようにNASHの病態形成に関与するか明らかにするため、in vitroにおいてコレステロール負荷に伴うマクロファージ活性化メカニズムとコレステロール引き抜きによる変化を検討する。RAW264は不死化した細胞株であるため、トランスクリプトーム解析やリソソーム機能評価などによって初代培養肝マクロファージとの比較を行う。また、正常肝、脂肪肝、NASHなど異なる病期の肝臓からマクロファージを単離し、コレステロールに対する反応性に違いがあるか検討する。
コロナウイルス感染症の流行状況によって予定通りの規模で実験を行うことができないリスクを考慮してマウスの繁殖規模を縮小し、in vitro実験を優先して行った。現在は徐々に動物実験の比重を戻し、次年度はin vivo実験を中心に解析を行う予定である。
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Nutrients
巻: 15 ページ: 350
10.3390/nu15020350
http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/mmm/