研究実績の概要 |
昨年度実績の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)肝硬変の移植後再発とその特徴, 予後の検討, 生体ドナーの脂肪肝発生率, 発症リスクに加えて, 本年度はNASH以外の肝移植症例の術後非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の発症(de novo NAFLD)リスクについて検討した。これは近年増加傾向のNASH/NAFLD非代償性肝硬変の頻度から, 移植後de novo NAFLDによるグラフト不全のリスクを明らかにする必要があるためである。対象は2004年3月-2012年10月に当院で実施した生体肝移植128例とし, NASH肝硬変への移植6例, 術後早期死亡19例, データ不足5例を除く98例を解析した。フォロー期間(平均14.3±2.4年(小児期移植, n=33), 11.9±5.1年(成人 n=65))にde novo NAFLDを発症したのは小児期移植33中20例(60.6%)で、成人の65中19例(29.2%)の約2倍であった。小児期移植のde novo NAFLD発症例の有無で比較すると, de novo NAFLD発症群は移植時BMIが有意に高値で, ドナーは父親が多い結果であった。一方で成人のde novo NAFLD発症群は発症無と比較して、直近のBMI高値で, 高血圧合併が有意に多く, ALTが有意に高値であった。小児・成人共にde novo NAFLD発症の有無で予後は変わらなかったが、成人のde novo NAFLD発症群で栄養・運動療法などの治療介入により改善が得られた19中11例は, 改善無しの6例と比較し予後良好な傾向があった(15年生存率 90.1% vs. 66.7%)。また改善無し群は血小板が有意に低値で, 肝グラフト線維化進行の可能性が示唆された。上記結果をまとめ第59回日本肝臓学会 ワークショップで口演発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
NASH肝硬変患者からのPBMCの採取とこれによるヒト化マウス作成が予定よりも遅れている。理由として年々NASH肝硬変から肝不全となり肝移植の適応症例の紹介は増えているが、実際に移植に至る症例が無く、移植前後のPBMCの採取が困難な状況である。NASHの症例は家族も同様の生活習慣であることから脂肪肝であることが多く、生体肝移植が成り立ちにくい状況が報告されている(Hasegawa Y, J Hepatobiliary Pancreat Sci, 2022)。例外に漏れず当院でも生体肝移植となる症例が無く, PBMCの採取の機会が失われている。
|
今後の研究の推進方策 |
NASH肝硬変からのPBMCの採取は脳死肝移植待機中の症例からも含めた検討に変更する。そのための研究計画書の変更を進める。一方で、前年度にNASH/NAFLDに関する改訂があり, 欧州肝臓学会, 米国肝臓病学会から新しい病名としてMetabolic dysfunction associated steatohepatitis (MASH), Metabolic dysfunction associated steatotic liver disease (MASLD)への名称変更が提案された。本邦においてもMASH/MASLDの病名, 分類に従って変更されることとなった。本分類においては脂肪肝の有無に加えて, 肥満, DM, 高血圧, 高脂血症などの代謝異常が診断に加わる。移植後のグラフト機能障害に加えて, 心血管系イベントの含めた予後に関与する分類であり, 長期予後の改善に関与する可能性が高い。前年度の評価に加えて, de novo MASLDの発生頻度, リスク因子, 予後を明らかにする検討も加えて実施する予定である。
|