研究課題
本研究の目的は、乳癌手術の切除断端に対して、生組織を用いて手術室内にて正確で短時間・簡便に術中迅速診断を行う測定方法を開発することである。我々はこれまでの研究で癌細胞などの酸化ストレスの多い細胞において高発現するアクロレインを用いたアジドプローブの染色(Click-to-sense(CTS))法により、乳腺生組織や、その捺印スライド中の癌細胞を選択的に蛍光標識できることを見いだした。本測定法は、病理組織診断と同等程度の微小サイズの検出や明確な癌の形態や局在を評価することが約10分という短時間で可能である。今回の研究において我々は手術中に乳癌の乳腺切除断端の術中迅速診断(各方向の断端乳腺組織)の提出と同時に、同組織片に対してCTS法による捺印スライドを採取し、捺印細胞に対するCTS法の画像診断を行うかたちで多施設共同による臨床試験を施行する。また、CTS法による断端診断については、実臨床にて施行される病理診断結果(術中・術後診断)と比較した正診率および特異度を解析する。また、CTS法の蛍光画像に対してAI(Artificial Intelligence)を用いて機械学習(Deep Learning)で解析することで精度の高い画像診断システムの構築を行う。CTS法による術中迅速診断が実用化できれば、手術中に手術室内で切除断端を診断することが可能であり、非常に有用な手術中の診断ツールとして活用できると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
我々は、生細胞や生組織を直接、短時間染色することで、癌細胞の有無を診断することができるアジドプローブという試薬を開発した。また生細胞や生組織をこのアジドプローブに直接浸す(染色する)ことにより、細胞レベルにて癌細胞の有無を確認できる利点があり、短時間で癌組織と正常組織を高精度で診断することが可能である(CTS法)。現在までの進捗状況としては、我々は微小な乳癌病巣について確認する為に、乳癌の乳房全摘術の標本(n=63)を対象とし、腫瘍縁より1~2cm程度離れた所から(近傍)乳腺組織片(n=126)を採取し(乳房温存手術における切除断端のシミュレーション)、本測定を行ったところ、凍結病理組織診と同等の、高い正診率を確認し、微小病変にも有用であることを、論文発表している(Eur J Surg Oncol. 2022 Jul;48(7):1520-1526.)。また、2022年より大阪大学医学部附属病院、大阪国際がんセンター、大阪警察病院による乳腺切除断端に対する多施設臨床試験(永久病理診断に対するCTS法の捺印細胞診断と術中迅速診断の比較)の初期段階Pilot試験を実施しており、日本乳癌総会学会2022年、2023年にて報告した。大阪大学未来医療センターにて、CTS法の多施設共同試験におけるARO(臨床統計解析/生物統計解析)、CTS法の多施設共同試験における規制対応戦略・臨床性能評価計画の立案などを実施してシスメックス社・理化学研究所を中心に試薬試作品の生産の準備、短期安定性(評価)を行った。2023年12月にPMDAの全般相談を行い、2024年3月より体外診断用医薬品試薬の臨床性能試験としてのCTS法の多施設臨床試験を開始している。
今後の研究の推進方策としては、大阪大学医学部附属病院、大阪国際がんセンター、大阪警察病院にてCTS法を用いて、実臨床で行われている凍結切片での迅速組織診断に対する非劣性を検証する多施設共同臨床試験(症例数130症例(通常症例100症例、術前薬物療法後30症例)を実施する。研究の主要評価項目としては、CTS法と永久病理診断との全体一致割合、及び陽性一致割合、陰性一致割合を評価する。副次評価項目としては、凍結切片による術中病理診断に対するCTS法の非劣性を評価する。約1年から1年半程度にて症例集積後、主要評価項目として、CTS法と永久病理診断との全体一致割合、及び陽性一致割合、陰性一致割合を評価する。副次評価項目としては凍結切片による術中病理診断に対するCTS法の非劣性を評価する予定である。また、大阪大学情報科学研究科では、撮影された蛍光画像写真は逐次供与され、AIのDeep Learningよる精度の高い画像診断システムのアルゴリズムの構築を行う。さらにこのCTS法の付随研究として、CTS法は細胞レベルにて癌細胞の有無を確認できることを用いて、乳房腫瘤に対するCTS法を用いた穿刺吸引細胞診FNAC(Fine Needle Aspiration Cytology)により悪性と良性病変の診断に有用かどうかを確認する予定である。将来、CTS法を用いたFNACの診断法が確立され実用化できれば、病理医不在の病院やクリニックにおいても、速やかに診断を行うことが可能になると考えられる。
2024年3月からCTS法のPMDAの多施設臨床性能試験開始している(1年から1年半程度)。次年度使用額が生じた理由と使用計画としては、多施設臨床性能試験運用の為に2024年度において大阪大学未来医療センターでの研究支援業務、プロジェクトマネジメント業務、多施設共同試験におけるARO(臨床統計解析/生物統計解析)、多数の物品費やその他の費用(スライド試料のバイク便搬送)などに多額の経費が必要となる為、次年度・次々年度に計上した。また研究成果物である論文投稿や学会発表にも経費を要する見込みである。
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