研究課題
がん悪液質はがん末期の難治性の病態であり、がん治療の成績を向上する上で治療開発は極めて重要である。抗糖尿病薬メトホルミンの抗悪液質作用が報告されているが単独の効果は不十分であり、分子経路も解明されていない。申請者らは、メトホルミンのがんに対する抗炎症作用を解明したことから、さらにがん悪液質における抗炎症作用、新しい視点としてエクソソーム動態、シグナル伝達を解析することで、がん悪液質の新規治療標的を明らかにできると考えた。そこで本研究では、メトホルミンがん悪液質治療モデルを用いてエクソソームに着目した分子経路を解析することにより新規治療標的を同定し、さらにエクソソームをDDS(Drug Delivery System)として用いた創薬を行うことを目的とした。本研究では我々独自の蛍光標識エクソソーム分泌胃癌細胞を作成し使用すること、メトホルミン投与胃癌培養細胞の培養上清よりエクソソームを抽出し標的分子を同定すし、これをがん由来エクソソームに導入し創薬エクソソームを作成、がん悪液質マウスモデルならびにPDXモデルにて治療効果を検証する予定としている。標的分子の同定を令和4年度(初年度)に予定していたが、悪液質モデルマウスの作成は令和5年度に予定していたが、標的分子の同定に先行して同モデルマウスの作成を令和4年度に遂行した。加えて、本年は近年がん治療の主役に躍り出た免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の分子標的であるPDL1の血清濃度を検討することでがん悪液質とICIの効果と密接にかかわる免疫疲弊との関連を検討し、文献報告した。
2: おおむね順調に進展している
悪液質とは、骨格筋の持続的な減少であり、食欲不振、体重減少、骨格筋の減少を主徴とする。本研究の今年度の目的は、胃がんにおける癌悪液質の解析から、エクソソームを基軸としたメカニズムならびに癌宿主連環への介入に資する知見を得ることとした。悪液質in vitroモデル、モデルマウスの作成を行った。マウスはBALB/c nu/nu female 8w (日本エスエルシー株式会社)、未分化胃癌細胞株としてMKN45(低分化型腺癌)-GFP、NUGC-4(印環細胞癌)-GFPを用いて、癌細胞のマウスへの投与方法として皮下注、腹腔内投与をおこなった。実験動物用体組成計としてImpediVET (ImpediMed社(米国))を使用し体内総水分量、細胞外液量、細胞内液量、除脂肪量、脂肪量を評価した。胃癌細胞腹腔内投与マウスはいずれも腹腔内に播種病変を形成したことが確認された。胃がん細胞腹腔内投与マウスでは食餌・飲水量の低下は顕著であり、消化管通過障害、機能低下の考慮も必要であると考えられた。NUGC-4腹腔内投与マウスは血性腹水を産生し、この影響により体重減少が少ない傾向で、悪液質の評価としての体重減少の評価が困難であると思われた。ことが条件であると考えられるが、この点ではMKN45皮下腫瘍モデルは体重減少が計測可能で、かつ消化管機能への直接的影響や腹水貯留の影響が少なく悪液質モデルマウスとして最も適切であると結論した。また、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の分子標的であるPDL1の血清濃度を検討することでがん悪液質とICIの効果と密接にかかわる免疫疲弊との関連を検討し、文献報告した(Matsumoto Y, Kano M, et al. Mol Clin Oncol. 2023 Mar 20;18(5):39.)
本研究の目的は、悪液質モデルマウスの作成と、分子標的の解明、エクソソームを用いたDDSにより治療開発を行うことである。当初の予定として過去の研究により抗糖尿病薬メトホルミンの抗腫瘍効果と分子標的候補を複数同定していたことから、これらを分子標的候補とし、さらに網羅的解析により分子標的候補を検討することとしていたが、近年がん治療の主役に躍り出た免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の主分子標的であるPDL1について、さらに臨床的に評価が簡便な血清中濃度の測定により、がん悪液質との関連を文献報告できたことから、PDL1ならびに免疫疲弊(T cell exhaustion)の関連から分子標的の絞り込みを継続する。モデルマウスは遺伝子組み換えによりGFPが導入された胃がん培養細胞によるモデルが評価も含め完成したため、今後はより臨床に近いPDX (Patient’s derived xenograft)モデルの開発は急務にて進める。胃癌細胞由来エクソソームの抽出はすでに完了しているため、標的分子の導入法を精査し、創薬エクソソームの作成は、予定通り令和5年以降に取り組むこととしている。がん由来エクソソームが全身、有害事象の面では肝腎等の腫瘍臓器、効果の面では骨格筋や脂肪組織が標的になると考えられ、その影響を精査する。がん悪液質患者の癌腫や進行度、余病や骨格筋量等の患者背景、予後等は臨床応用する際の重要な情報となるため、それらの臨床病理学的解析をすすめる。
代表研究者が施設を異動となったため、研究体制を再構築する必要があったため、予定より少ない支出となった。研究体制構築次第支出するため、次年度使用額とした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件)
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