研究課題
生体膜リン脂質は、生体膜の主要構成成分であるだけでなく、様々な生命現象に関与していることが明らかになってきた。リン脂質はde novo経路(Kennedy経路)と脂肪酸鎖リモデリング経路(Lands回路)により生合成される。この2つの経路を介してリン脂質は多様性やsn-1,2位の非対称性を獲得する事ができる。2000年代に入って、ようやくリン脂質を合成する責任酵素群が同定された、リン脂質組成を直接制御することが可能になった。生体膜リン脂質合成酵素の生理学的意義については近年急速に明らかになりつつあるが、病態形成において果たす役割に関しては不明な部分が多い。肝臓は、糖代謝・アミノ酸代謝、胆汁酸の産生、解毒作用といった多様な働きに加えて、脂質代謝においても必須かつ中心的な役割を果たしている。恒常性維持機構は肝臓では特に、物理的損傷を受けた時や炎症による障害などを受けた時に顕著に露わとなる。その機構を解明することは、その破綻が原因となって生じる肝硬変を初めとした様々な疾患の病態解明や新規治療法の開発へとつながり得る。本研究では、ほ乳類が自ら合成できないため食餌からの摂取が必要な多価不飽和脂肪酸に着目し、多価不飽和脂肪酸含有リン脂質を制御するリゾリン脂質アシル転移酵素を用いて、肝疾患における多価不飽和脂肪酸含有リン脂質の役割を明らかにすることを目的とする。今年度は、作成した肝臓特異的多価不飽和脂肪酸欠損マウスに急性肝疾患や慢性肝疾患をはじめとした様々な肝疾患を引き起こし、PUFAが肝臓の病態形成にどのように関与するのかを網羅的に調べた。
2: おおむね順調に進展している
マウスの交配・繁殖も問題なく、研究計画に沿った匹数を確保でき、概ね計画通りに進んでいる。CreLoxPシステムにより作成した肝臓特異的多価不飽和脂肪酸欠損マウスは、生理条件下では、脂質組成の変動以外は、肝障害など特筆すべき点は認められなかった。このマウスに、急性肝疾患や慢性肝疾患などの様々な肝疾患を引き起こし、PUFAが関与する肝疾患を網羅的に調べた。その結果、PUFAと関連がある可能性が高い病態候補を絞ることができた。急性肝障害において、コントロールでは多数認められたzone3領域のへパトサイトの壊死が、PUFA肝臓欠損マウスでは顕著に抑えられていることが分かった。また、PUFA欠損により血清ALTおよびASTなどの上昇も抑えられていた。急性肝障害とPUFAと関連があることを示唆するデータを得ることができたため、概ね順調に進展していると考えられる。
これまでPUFAと急性肝障害との関連性は、十分には検討されていない。昨年度、急性肝障害とPUFAに関連があることを示唆するデータを得ることができたため、今年度は、急性肝障害に焦点を絞り、その病態発展・進行機構を解明していく。高速液体クロマトグラフィー質量分析計、高速ガスクロマトグラフィー質量分析計やイメージングMS などを用いて、肝臓をはじめ他臓器のリン脂質の組成変化や関連代謝産物のリピドミクス解析を行い、明らかにする。本研究成果を、国内国外問わず学会発表にて報告するとともに、論文の形として発表するように努めていく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件)
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