研究課題/領域番号 |
22K08797
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
猪川 祥邦 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (80772863)
|
研究分担者 |
林 真路 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (70755503)
田中 晴祥 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (80793504)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 膵癌 / HIF1α / 低酸素応答性エレメント / 微小環境 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
膵癌は乏血性な腫瘍であり、低酸素な微小環境が特徴的である。本研究では低酸素誘導因子の一つであるHIF1αが膵癌においてどのように低酸素抵抗性に関わるのか、そのメカニズムを解明することを目的とする。 まず名古屋大学医学部附属病院・消化器外科学教室で保有する膵癌細胞株であるKP1NLおよびTU8902、また多血性の特徴を持つ肝細胞癌の細胞株であるHepG2およびHIF1αを用いてsiRNAによるHIF1αのノックダウン実験を行った。それぞれ、siCtrlに比較して1~3%までmRNAの発現を低下させることに成功した。これらHIF1αをノックダウンした細胞株およびコントロールから抽出したmRNAを用い、PCR array解析を行い、Human Hypoxia Signaling Pathwayについての分子の発現を比較した。PCR array内にもHIF1αが含まれており、4つの細胞株において再現性を持ってsiRNAによりHIF1α発現が低下していた。血管新生に関わる分子であるVEGFAの発現は膵癌細胞株でのHIF1αノックダウンで1.00, 0.76と比較的低下していないのに対し、肝細胞癌細胞株では0.67, 0.75と低下している傾向を認めた。これは低酸素な腫瘍環境下において膵癌は乏血性であるのに対し、多血性の肝細胞癌がよりVEGFによる血管新生促進を誘導していることに合致するデータと考えられた。VEGFAのように肝細胞癌でより低下している傾向を認める分子としてPGF、SLC2A1、ALDOC、BHLHE40、などが認められ、逆に膵癌でより低下している傾向のある分子としてはADORA2B、ANXA2、ARNT、EGLN2などが同定された。 これらの低酸素応答性パスウェイの分子とHIF1αの相関が臨床検体でも認められるか、膵癌症例において評価するために標本から順次RNA抽出、cDNA作成を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではまずsiRNAを用いたHIF1αのノックダウンを行うことからスタートした。ここで十分なノックダウン効率を有する膵癌細胞株および肝細胞癌細胞株の同定に時間を要した。またmRNA発現の評価が妥当であることを確認するためにHIF1αのプライマー作成も複数種類での発現確認を行った。 PCR array解析については、細胞株4種類について、それぞれのsiCtrl、siHIF1αの細胞からRNAを抽出、合計8検体を用いてのPCR array解析であり、ここでも時間を要した。 臨床検体を用いた解析については実際の当科における膵癌切除症例の切除標本検体から順次組織片を採取、核酸抽出を行っている。症例蓄積に時間を要している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、同定された膵癌に特徴的な変化を来すHIF1αが結合するHREの下流ターゲット遺伝子について、臨床検体における発現の変化をHIF1αとの相関、臨床病理学的因子、切除後予後、化学療法感受性など臨床因子との相関の観点から検証する。 乏血性の膵癌において、低酸素であってもVEGF発現が高値となっていることは考えにくく、これについても発現を評価、HIF1αとの相関も評価する。 また細胞株を用いた実験として、低酸素培養を行い、実際に膵癌細胞株が低酸素環境下でHIF1αを介したメカニズムで低酸素抵抗性を示しているかを検証する。さらに同様に低酸素環境となることで変化を示す分子の同定もRT-PCRによって試みる。さらに低酸素培養によるHIF1αの核内移行についても蛍光顕微鏡およびfractionation後のWestern Blottingによる局在変化で検証する。 膵癌細胞株を用いてCRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集によりHIF1αもしくは新規ターゲット遺伝子のノックアウトおよび過剰発現細胞株を複数種類作成、低酸素培養での細胞増殖能への影響を確認する。さらに化学療法との感受性をin vitroで評価する。これらによって同定された分子について、免疫不全マウスを用いてin vivoで化学療法感受性への影響を評価する。 ここまでの検証によって同定された膵癌における化学療法抵抗性関連の低酸素誘導因子、および新規膵癌HRE下流ターゲット遺伝子について、これらに対する抗体もしくはsiRNAによる分子標的治療の開発を試みる。既存の阻害剤がある分子の場合には、化学療法と阻害剤の相乗効果について検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養によるノックダウンおよびPCR arrayの解析に時間を要し、その後の機能解析、下流の遺伝子についての解析、臨床検体を用いた解析に進むことができず、予定していた費用を使い切らなかったために次年度使用が生じた。今後これらの解析を行って使用していく予定である。
|