研究実績の概要 |
消化管神経内分泌癌(NEC)は診断時に多くの症例で遠隔転移がみられる、極めて予後不良な疾患である。NECには通常の消化器癌に有効な抗がん剤の効果も乏しく、治療法は未だ確立していない。申請者らはこれまで大腸神経内分泌由来の培養細胞株(SS-2細胞)の樹立に成功し、3次元培養したSS-2細胞のスフェアではがん幹細胞マー カーのCD133が高発現していることを報告した。 NECに対する新規治療法の開発を目的に細胞表面に発現している糖鎖の役割や、糖鎖を標的とした薬剤開発、腫瘍微小環境についての検討を行なっている。令和4年度は、通常のヒト大腸癌培養細胞株(DLD-1, CACO-2, HCT-15, SW480, COLO-302)とヒト大腸NEC培養細胞株(SS-2)におけるEMTマーカー(E-cadherin, Vimentin)発現、ならびにがん幹細胞マーカー(CD133)発現をqRT-PCR法で検討した。その結果、通常の大腸癌培養細胞株におけるEMTマーカーの発現はさまざまであり、DLD-1細胞がE-cadherinを、COLO-320細胞がVimentinを最も高発現していた。SS-2細胞はE-cadherin高値の上皮系の性質を持つ細胞株であった。がん幹細胞マーカーについては、CACO-2細胞が他の培養細胞株と比較して有意にCD133が高発現していた。令和5年度は、3D培養を行い培地中に形成したスフェアを走査型顕微鏡による形態観察と機能解析を行なった。SS-2細胞は多数の腫瘍細胞が集簇したブドウの房状のスフェアを形成するのに対し、CACO-2細胞は穴の開いた野球のボールが集まったような特徴的な形態のスフェアを形成した。DLD-1, SW480, COLO-320細胞のスフェアは個々のがん細胞が集まった、結合の緩いスフェアを形成した。DLD-1, CACO-2, HCT-15細胞のスフェアでは、細胞増殖マーカーのKi-67陽性細胞は3D培養でより2D培養より多かった。今後、さらに3D培養したSS-2細胞と通常の大腸癌培養細胞のEMTマーカー発現、ならびにがん幹細胞マーカー発現の変化などについて検討する予定である。
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