研究課題/領域番号 |
22K08869
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
江口 聡 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (00912007)
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研究分担者 |
山田 大作 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60571396)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 肝内胆管癌 / IL-33 / 腫瘍周囲環境 / 癌関連線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
まず研究実施計画に則り,C57BL/6マウスにC57BL/6マウス由来胆管癌細胞株を同種同所性移植する実験より開始した.肝臓皮膜下に細胞株を局所注射して移植し,安定して腫瘍形成が得られるまで手技の向上を試みたが,うまく腫瘍形成させることができなかったため実験の手順を変更し,臨床検体を用いた実験から開始することとした. 肝内胆管癌切除標本におけるIL-33とCAFsの発現を抗IL-33交代および抗α-SMA抗体を用いで免疫組織化学染色し,双方の発現量の関連やその発現量と予後との関連について検証を行なった. その結果,IL-33陽性細胞が高発現のグループは有意に肝再発期間が短く,CAFsが高発現のグループは全生存期間,肝再発期間ともに有意に短かった.さらにIL-33とCAFsがともに高発現であるグループはともに低発現のグループと比較してより顕著に肝再発期間が短かった.しかし,IL-33陽性細胞とCAFsの発現量に数的な相関関係はなかった.このことから,IL-33にはCAFsの発現量を増加させる働きは無いが,CAFsの機能を変化させることで癌細胞の発育を助長させているのではないかと新たに仮説を立てた. この仮説を検証すべく,胆管癌細胞株を用いて細胞機能の変化を比較する実験を行なった.細胞株の単独培養群(単独群)とCAFsを48時間培養した後の培養上清を細胞株に添加して培養する群(IL-33なし上清添加群),CAFsをIL-33暴露下に48時間培養した後の培養上清を細胞株に添加して培養する群(IL-33あり上清添加群)の3群における増殖能と遊走能,抗癌剤耐性を比較を行なった. その結果,IL-33あり上清添加群で有意に増殖能と遊走能の亢進を認めたが,抗癌剤耐性には変化を認めなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は動物実験としてC57BL/6マウスにC57BL/6マウス由来胆管癌細胞株を同種同所性移植する実験から開始することを予定していたが,細胞株の移植後に安定した腫瘍の形成が得られなかったため,実験計画の変更を要した.そのため臨床検体を用いた実験から開始すると,IL-33と腫瘍周囲環境であるCAFsの双方が多く存在することで肝内胆管癌の予後悪化につながることが分かった. しかしながら,IL-33陽性細胞の発現量とCAFsの発現量に数的な相関関係はなく,すなわちIL-33がCAFsの発現量を増加させている訳ではないということが分かった.このことから考察するに,IL-33がCAFsに何らかの影響を与え,その後CAFsが癌細胞の発育を促進する様な影響を与えているのではないかという仮説に至った.この仮説を検証すべく細胞実験を行なったところ,CAFsはIL-33に暴露されることで胆管癌細胞株の増殖能や遊走能を亢進させることが分かり,臨床検体で得られた結果と矛盾しないものであった. このように,当初想定していた実験計画を変更しての開始となったが,本研究の目的である「肝切除時に放出されるIL-33と腫瘍周囲環境への影響,および再発における役割を調べること」を証明し得る結果が得られており,研究は概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
既報にて,IL-6を代表とする炎症性サイトカインが肝内胆管癌の発育を促進するという報告がある.これまでの結果と既報を踏まえ,IL-33に暴露されたCAFsが炎症性サイトカインの分泌を増加させることで,細胞株の増殖能や遊走能の亢進に繋がっているのではないかと考察している. このことを証明するため,肝内胆管癌切除標本の凍結サンプルをmRNA-seqに提出し,免疫染色結果におけるIL-33とCAFsが共に高発現であったグループと共に低発現であったグループの発現遺伝子の差を比較する予定としている.またIL-33/CAFs高発現群でup-regulationが確認されたpathwayに含まれる炎症性サイトカインのmRNAは,実際にIL-33に暴露されたCAFsにおいて発現が増加しているかをPCR法にて検証する. さらに,関連が示唆された炎症性サイトカインをブロックすることでIL-33とCAFsの相互作用で増加した胆管癌細胞株の増殖能や遊走能が低下するかどうかの確認も行う. 最後に,動物実験でも同様の現象が確認されるかどうかを検証するため,C57BL/6マウスにC57BL/6マウス由来胆管癌細胞株の皮下移植を行い,肝切除群と非肝切除群,胆管癌細胞株単独移植群とCAFs共移植群,炎症性サイトカインブロック施行群と非施行群における皮下腫瘍の成長速度の比較を行う予定としている.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に関しては,研究室に残存していた物品をある程度使用できたため,想定より新規物品の購入量が少なくなったためと思われる. 今年度以降は,新規購入を要する物品が増えることが予想されるため,購入費用に充当する予定である.
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