研究課題
「研究の目的」本研究では,消化管間質細胞腫 (gastrointestinal stromal tumor: GIST) の主原因の変異KITチロシンキナーゼのゴルジ停留とそこからの増殖シグナル発信の要因としてin vitroの実験で明らかにした Protein Kinase D2 (PKD2) を中心に,ゴルジ停留の詳細な分子機構, チロシンリン酸化の必要性, 更にはこれらを踏まえた治療薬開発の基盤的解明を目的としている。{進捗概要」本年度は,複数のGIST細胞株 (イマチニブ感受性株: GIST-T1; イマチニブ耐性株: GIST-R9, GIST430/654, GIST48) を用い,PKDキナーゼ阻害剤(CRT0066101)の効果を調べた。PKD阻害剤は,いずれのGIST細胞株に対しても細胞形態の収縮, 増殖抑制効果を示し,細胞死の誘導が観察され,8時間以内にアポトーシスマーカーのレベルが亢進していることが確認された。PKD阻害剤処理で自己リン酸化(PKD2活性化の指標として用いた)は抑制された。PKD阻害剤処理で,イマチニブ感受性,耐性に関わらず,変異KITはゴルジ領域から離れリソソームに移行し,変異KITが分解されていることを示唆するデータを得ている。また,PKD2阻害でPKDのエフェクターであるPI4-Kinase IIIB (PI4KIIIB) の産生物質PI4Pのレベルが低下した。siRNAによるPI4KIIIBのノックダウンは,CRT0066101処理と形態学的にも生化学的結果も類似し,KIT変異GISTではPKD2-PI4KIIIBが活性化していることを示唆した。今後,PKR2-PI4KIIIB経路活性化におけるKIT活性化の意義の解析と,臨床検体, ノックインマウスでの実験を行う。
2: おおむね順調に進展している
イマチニブ耐性を含む複数のGIST細胞株の増殖に関し,PKD阻害剤が増殖抑制効果を有することが確認できた。その際KIT変異体のゴルジからの移動を明らかにでき,いずれの細胞株でも一致した結果を得た。PKD2の下流の分子機構に関して,複数のGIST細胞株でPI4KIIIBの関与を示唆するデータを得,その活性化を調べる手段を構築することができた。PKD2の876番目のセリン残基の自己リン酸化, 即ちPKD2活性化を蛍光顕微鏡およびイムノブロットで検出可能となりPKD2活性化の細胞内部位と,阻害剤の効果を計測できるようになったため,「概ね順調に進展している」 とした。
引き続きイマチニブ感受性および耐性のGIST細胞において,変異型KITとPKD2-PI4KIIIB経路に関連する分子群の相互作用の詳細分子機構を解明する。また,イマチニブ耐性KIT変異のノックインマウスのGIST様の病変部を用いた実験の準備をおこなう。さらに,PKD2阻害が他がん種のドライバー遺伝子変異キナーゼの細胞内局在およびシグナルに影響あるかどうかを検討する。また,今年度以降,1.KIT変異GISTやKITに変異のないWild-type GISTの臨床検体を用いGISTで変異KITがトランスゴルジ周辺でリン酸化し,リン酸化PKD2やPI3KBとの共存を明らかにする。2.さらに家族性GIST患者と変異KITのKnock-in mice検体を用い,発生学的にPKD2リン酸化と変異KITのトランスゴルジ局在化時期と腫瘍化の関係を明らかにする。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
Gastric Cancer
巻: 25 ページ: 956-965
10.1007/s10120-022-01310-z.
Int J Clin Oncol.
巻: 27 ページ: 921-929
10.1007/s10147-022-02135-7
巻: 27 ページ: 1164-1172
10.1007/s10147-022-02159-z.
Ann Oncol.
巻: 33 ページ: 959-967
10.1016/j.annonc.2022.05.518.
Sci Rep.
巻: 12 ページ: 22492
10.1038/s41598-022-27092-z.