研究課題/領域番号 |
22K08894
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
戸島 剛男 九州大学, 大学病院, 助教 (40608965)
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研究分担者 |
鈴木 穣 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323646)
三森 功士 九州大学, 大学病院, 教授 (50322748)
吉住 朋晴 九州大学, 医学研究院, 教授 (80363373)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 膵癌 / エンハンサー / シングルセル解析 / NET-CAGE / GEX-ATAC / 全ゲノムシークエンス |
研究実績の概要 |
エンハンサーに着目したシングルセル解析による膵癌細胞と間質細胞の共局在がもたらす悪性度獲得機構の解明と革新的治療標的の同定を行う研究計画である。 近年、消化器癌の生命予後は手術手技の改善や抗癌剤・新規分子標的薬の開発によって飛躍的に改善した。しかし、依然として膵癌は早期診断が困難な癌腫であり有効な分子標的薬もなく5年生存率が10%と著しく予後不良である。膵癌が高い悪性度を呈する理由に関していくつかの特徴がある。1) 治療に資する有効なゲノム標的がない点:P53, KRAS, CDKN2A, SMAD4 が代表的なドライバーであるがこれまで有効な治療標的とはなり得ていない。2) 非炎症性腫瘍(cold tumor):癌微小環境においてコピー数変異などが原因で腫瘍免疫応答をeditingして免疫寛容が誘導されている。3) EMT様組織:癌細胞が間葉系の性質を呈して浸潤傾向を示すなど悪性度を高めている。現時点では、切除以外の抜本的な治療法が少ない腫瘍であり、これまでのゲノム変異情報に基づいた分子標的薬の適応を凌駕する新たな視点でのアプローチが必須と考えられる。 本研究では、エンハンサーに着目しシングルセル解析を含めた新規技術を用いて膵癌における活性化エンハンサー及びその支配遺伝子の同定を目指す。エンハンサーの働きが膵癌の悪性度獲得の根幹である可能性が非常に高く、支配遺伝子をターゲットとした分子標的治療や転写機構を制御する創薬など、膵癌治療の新たな可能性を示すことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で明らかにすべき目標として第一に、膵癌における遺伝子発現プロファイルを評価しその活性化エンハンサーと全ゲノムシークエンス上にマッピングした上での全体像を明らかにすることである。膵癌組織においてのみ活性のあるエンハンサーをとらえることができれば、膵癌形成における重要な遺伝子の選出を、今までの研究とは異なった新しい視点から行うことができる。 現在、我々は、これまでに25例の全エクソームシークエンス(WES)、605例のRNAシークエンスを行い、コード領域のゲノム変異プロファイルを有しているほか、現在AMED「革新的がん医療実用化研究事業(厚生労働省)」の領域1「全ゲノム解析研究(膵癌分野)に着手しており、全ゲノムシークエンス(WGS)に関して全体として、300症例の癌部/非癌部ペアの全ゲノムシークエンス及びRNAシークエンスが完了し、現在、邦人の膵癌データベースの構築中の状況である。 同時に、我々は最近開発された革新的な下記二つの技術を本研究に応用する予定である。1) NET-CAGE法:エンハンサーの中で真に活性化している領域のみを同定することのできる方法。2) Single cell GEX-ATAC Sequence (scGEX-ATAC seq): 組織における一細胞ごとの遺伝子発現とオープンクロマチン領域(≒エンハンサー領域)を同一細胞の中で同時に測定することのできる画期的な方法。 現在取得済みであるて膵癌症例300例の全ゲノムシーケンス(AMED「革新的がん医療実用化研究事業(厚生労働省)」の領域1「がんの本体解明に関する研究(膵癌分野))のほか、現在、膵癌細胞株8株、正常膵細胞株2例のNET-CAGE法に提出した結果を所有しており、膵癌細胞、正常膵管細胞における活性化エンハンサー領域のデータを参照可能な状況となっており、解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
エンハンサー制御機構は近年分子生物学分野のトピックスである一方、公開されているATAC seqデータの中で膵癌データは含まれておらず、本研究で膵癌におけるエンハンサー制御機構をさらに解明できる可能性がある。エンハンサーの働きが、がんをはじめとした様々な疾患に寄与していることが報告されているが、エンハンサー機構の解明において、ごく最近ブレイクスルーがあった。特に、研究協力者である京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)村川泰裕教授らが発表したNET-CAGE法(新生鎖RNAを補足するRNA解析法)である(Hirabayashi S, Murakawa Y, et al. Nat Genet.2019)。さらに、シングルセルRNA seqの応用として、単一細胞レベルでのRNA-seqにとどまらず、同一細胞でのATAC seqも同時に行うことができる技術としてscGEX-ATAC seqが確立されている。この技術の連携先として分担研究者 東京大学大学院新領域創成科学研究科 鈴木穣教授に共同研究を行うことで、膵癌細胞と共局在する重要な細胞と悪性度獲得へのクロストーク遺伝子を同定する方法として、膵癌におけるエンハンサーに着目し、NET-CAGE法とscGEX-ATAC seqを用いることで膵癌細胞において真に活性化しているエンハンサーを規定し、エンハンサーと支配遺伝子を規定し、膵癌において働いている遺伝子制御機構を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の実験消耗品にて使用予定
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