研究課題/領域番号 |
22K08901
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
鯉沼 広治 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382905)
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研究分担者 |
堀江 久永 自治医科大学, 医学部, 教授 (20316532)
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
佐田友 藍 自治医科大学, 医学部, 助教 (40528585)
金丸 理人 自治医科大学, 医学部, 助教 (10625544)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 好中球細胞外トラップ / 大腸癌 / 発癌 / 転移 |
研究実績の概要 |
(1)糖尿病モデルマウスの大腸がんの発生に与える影響: 好中球はNETsを起こしやすいことが知られている糖尿病モデルマウスC57BL/KsJ-db/db (db/db)を用いて、発癌、転移に及ぼすNETsの影響を検討する予定であったが、このマウスは、同じC57BL系ではあるが、マイナー抗原の違いがあり、H-2b系の癌細胞を拒絶すること、またMin/+mouseとの交配が不能であることなどが判明し、本研究には適切ではないことが判明したため、糖尿病を呈するob/ob肥満マウスに高脂肪食を与える実験系を用いて、癌の発生、進展に及ぼすNETsの影響を検討することにした。これまでに、ob/obマウスは、wild typeと比べてNETsの産生が多く、胃癌細胞YTN16の発育が有意に早いことが確認できており、本研究に応用できることが解った。 (2)外科的切除を施行した267例の糖尿病合併大腸癌症例のうちメトホルミン服用53例と傾向スコアマッチング法を用いて抽出したメトホルミン非服用群53例の癌病変のホルマリン固定標本から組織切片を作成、CD66b抗体、cit-H3抗体を用いた多色免疫染色を施行し、腫瘍浸潤好中球、NETsの存在様式を定量したところ、メトホルミン内服群におけるCD3(+)およびCD8(+)細胞は非内服群よりも有意に高く、CD8/CD3比は有意に増加(75% vs 51%, p<0.05 )していた。一方、メトホルミン内服群はCD68(+)マクロファージの密度も有意に高かったが、CD163(+) M2型TAMは低い傾向を示しCD163(+)/CD68(+)比は有意に低下していた(56% vs 78%, p<0.05) 。メトホルミンは免疫学的微小環境を抗腫瘍性に変化させることを介して大腸癌の病態に大きな影響を与えていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)動物実験として当初予定していた糖尿病モデルマウスのC57BL/KsJ-db/db (db/db)を新規購入し、転移実験から開始したが、このマウスは、同じC57BL系ではあるが、マイナー抗原の違いがあり、H-2b系のLewis lung carcinomaやB16メラノーマを拒絶すること、またMin/+mouseとの交配が不能であることなどが判明し、本研究には適切ではないことが判明し、大幅な計画変更を余儀なくされた。そこで、糖尿病を呈するob/ob肥満マウスに高脂肪食を与える実験系を用いて、癌の発生、進展に及ぼすNETsの影響を検討することにした。これまでの研究で、ob/ob肥満マウスに高脂肪食を与えることで高血糖を呈し、高いNETs産生を呈すること、同系の胃癌細胞YTN16(H-2b)を皮下、腹腔内投与することで皮下腫瘍、腹膜転移を形成することが確認できたため、このモデルを用いて、本研究の目的を達成することは可能であると考えられる。 (2)ヒト切除検体の組織切片の多免疫染色に関しては、別の課題で獲得した研究費で購入したモノクロナル抗体を使用することが出来たため、予定より少額の物品費にて当初の目的を概ね達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Ob/Obマウスを用いてNETsの分解薬DNAse1(200μg) やNETs産生阻害薬PAD阻害薬,Cl-Amidine (75mg /Kg) を腹腔内または経口投与し、12週後に犠牲死させ、メチレンブルー染色および β-catenin 免疫染色を用いて、大腸前癌病変であるaberrant crypt foci(ACF)とβ-catenin accumulated crypt(BCAC)の数を対象群と比較検討する。また、正常粘膜とACF、BCAC病変中のNETsの存在をシト ルリン化ヒストン3 (cit-H3) の免疫染色で定量する。 (2)モデルマウスの作成:大腸癌、膵癌の発生モデルであるMin/+mouseおよびKPCマウスとdb/dbマウスを交配させたマウスを作成し、(1)と同様 の検討を行い、糖尿病合併癌の発癌におけるNETsの役割を解明する。 (3)ob/obマウスに同系の胃癌細胞YTN16を腹腔内接種し、3週後に腹膜転移の数を測定し、野生型マウスと比べて増加するか? を確認する。次に、腫瘍接種前日よりDNAse1(200 μg) またはCl Amidine (75mg /Kg)を投与し、転移数の変化を検討する。 (4)外科的切除を施行した糖尿病を合併した膵癌と胃癌、および傾向スコアマッチング法を用いて抽出した糖尿病非合併患者由来のホルマリン固定癌標本から組織切片を作成、CD66b抗体、cit-H3抗体を用いた多色免疫染色を施行し、腫瘍浸潤好中球、NETsの存在様式を定量し、糖尿病合併消化器がんの微小環境における免疫学的特殊性を明らかにする。 その薬物治療が膵癌胃癌の組織中のNETs存在様式や癌の病態に及ぼす影響を推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1) 動物モデルの変更に伴い、予定していたマウスを用いた多数のIn Vivo実験を実行することが出来なかったため、動物、飼料の関する物品費が大幅に少なくなった。しかし、代用として用いたob/ob肥満マウスは、高脂肪食を与えることで高血糖を呈し、高いNETs産生能を有すること、同系の胃癌細胞YTN16(H-2b)を皮下、腹腔内投与することで効率的に皮下腫瘍、腹膜転移を形成することが確認できたため、次年度はこのマウスモデルを用いて、癌の発生、転移に及ぼすNETsの影響を検討する予定である。 (2)ヒト切除検体の組織切片の多免疫染色に関しては、別の課題で獲得した研究費で購入したモノクロナル抗体を使用することが出来たため、予定より少額の物品費にて当初の目的を達成することができた。今後は、対象を膵癌、胃癌、卵巣癌に広げて検討していく予定である。
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