研究課題/領域番号 |
22K08901
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
鯉沼 広治 自治医科大学, 医学部, 准教授 (20382905)
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研究分担者 |
堀江 久永 自治医科大学, 医学部, 教授 (20316532)
北山 丈二 自治医科大学, 医学部, 教授 (20251308)
佐田友 藍 自治医科大学, 医学部, 助教 (40528585)
金丸 理人 自治医科大学, 医学部, 助教 (10625544)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 大腸癌 / 免疫 / 好中球細胞外トラップ / メトホルミン / 腫瘍浸潤リンパ球 / 多重免疫染色 |
研究実績の概要 |
メトホルミンは 2 型糖尿病患者の癌関連死亡のリスクを軽減するが、その抗癌効果のメカニズムは解明されていない。近年、糖尿病患者の好中球は好中球細胞外トラップ(NET) の産生能が亢進しており、これが合併症の発症と密接な関連があることが分かってきた。 当科にて切除手術を施行した大腸癌(CRC) 患者のうち289 人がT2DM を合併していた。このうち62名が手術時にメトホルミンを服用しており、この患者の無再発生存期間(RFS)は非服用患者よりも有意に長く、非糖尿病患者 1,576 人よりも好い傾向があった。一方、メトホルミンは、LPSまたは HT-29 ヒト結腸癌細胞で刺激されたNETの産生を容量依存性に減少させた。末梢血好中球をLPSで刺激すると、CD3抗体とIL2で活性化したT細胞の走化性遊走を顕著に抑制したが、この効果はメトホルミンの存在によってほぼ完全に打ち消された。 外科的切除を受けたCRC 患者の中から傾向スコアマッチングにて40例の切除検体を選択し、多重免疫組織化学にて浸潤する免疫細胞を検討したところ、メトホルミン服用患者では、CD66b(+)腫瘍関連好中球とシトルリン化ヒストン3(+)で検出されるNET の密度が顕著に減少していた。同時にこれらの腫瘍組織ではCD3(+) および CD8(+) 腫瘍浸潤 T 細胞 (TIL)の密度が増加しており、その傾向は特に TAN がほとんどない領域で顕著であった。 メトホルミンは糖尿病に関連した NET 形成の亢進を抑制し、大腸癌組織における TIL の浸潤を増強する可能性がある。 糖尿病患者におけるメトホルミンの抗腫瘍効果は、少なくとも部分的にNETの阻害に起因している可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
In vitro実験にてメトホルミンの好中球に対する作用とT細胞の遊走に対する影響を明らかにすることができた。また、メトホルミン服用患者と非服用患者の大腸癌切除検体を用いた免疫染色にて免疫学的微小環境の違いを検出することができた。
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今後の研究の推進方策 |
メトホルミン以外の抗糖尿病薬DPP-4阻害薬、GLP-1作動薬、SGLT2阻害薬などの影響について追加検討する。余裕があれば、胃癌、膵癌など他癌腫でも同様の検討を行い、この現象ががん全般にも外挿できるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、In vitroの実験に必要な試薬の約半数の実験で有意な結果が得られた。また、免疫染色を施行する大腸癌検体数を各グループ50から60例と考えて抗体等の購入を算定していたが、40例で有意差が認められたため、予定より少ないコストで結果を得ることができた。次年度は、メトホルミン以外の抗糖尿病薬DPP-4阻害薬、GLP-1作動薬、SGLT2阻害薬とNETの関連性の検討に使用する。
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