研究課題
免疫グロブリン・スーパーファミリー細胞接着分子CADM1は非小細胞肺癌(NSCLC)を含む様々な上皮系の癌において腫瘍抑制に関与する.我々は,CADM1が小細胞肺癌(SCLC)において特異的なスプライシングを受けて高頻度に過剰発現し,悪性増殖能に関与することを見出した.次に,SCLCの分子生物学的特徴を検討するために,SCLC手術症例の長期治療成績の後ろ向き解析した.当院で肺切除術を行いSCLCと診断された102症例を対象としたところ,平均年齢は71.7歳,93人が男性で,99人が喫煙者であった.術式は32例が縮小手術,70例が肺葉切除術で,周術期死亡はなかった.47例に術後補助化学療法を施行し,3例に予防的全脳照射を施行した.病理病期はI/II/III/IVが51/24/26/1例で,平均観察期間は44.1ヵ月,5年生存率は56.8%であった.単変量解析ではCEA正常値(p=0.002),組織学的pure SCLC(p=0.002)血管侵襲陰性(p<0.001),pStage I(p<0.001),術後補助化学療法あり(p=0.045)が有意な予後良好因子であった.また,手術検体の免疫組織化学染色でCADM1及び癌幹細胞マーカー候補(CD133,CD44,ALDH1)の発現を検討したところ,CADM1は71%で強陽性であり、患者の予後不良と有意な相関を示した.一方,癌幹細胞マーカー候補の発現は予後と有意な相関はなかった.以上の研究成果をまとめ,論文投稿中である.また今年度は、以上の研究成果を「第81回日本癌学会学術総会」で発表する事が出来た.
2: おおむね順調に進展している
科研費交付以前から継続している本研究の研究成果を,今年度は「第81回日本癌学会学術総会」において発表する事が出来た.SCLCの分子生物学的特徴を検討するために,小細胞肺癌の手術症例の臨床病理学的因子と長期治療成績を後ろ向きに解析した.当院で肺切除術を行いSCLCと診断された102症例を対象としたところ,小細胞肺癌患者の術後5年生存率は56.8%と比較的良好であった.単変量解析ではCEA正常値(p=0.002),組織学的pure SCLC(p=0.002)血管侵襲陰性(p<0.001),pStage I(p<0.001),術後補助化学療法あり(p=0.045)が有意な予後良好因子であった.従って,SCLCは病理学的に混合型で,NSCLCの腫瘍マーカーであるCEAが高値の時は腫瘍学的に悪性度が高い可能性が示唆された.さらに,SCLC手術検体におけるCADM1発現の解析では,免疫組織化学染色にてCADM1が71%で強陽性であり、患者の予後不良と有意な相関を示した。次年度に向けてはCADM1に着目したSCLCの血清学的診断法及び予後予測の検討を行っている.CADM1はその細胞外領域がsheddingされ,可溶性蛋白として存在する。さらにSCLCに特異的なスプライシングバリアントは正常肺に発現するバリアントと比較してsheddingを受けやすいことが明らかになった.そこで、SCLC患者の血清中に可溶性CADM1が存在することを検証するため、ELISA法の確立を行っている。また,血中循環腫瘍DNAやRNA,エクソソームを採取して,我々が見出した小細胞肺癌に特異的に発現するスプライシングバリアントを解析することにより,小細胞肺癌の新しい診断法及び治療方針に関わる血清マーカーとなる可能性を検討している。
まず第一に,CADM1に着目した小細胞肺癌の血清学的診断法及び予後予測の検討を進める.CADM1はその細胞外領域がsheddingされて可溶性蛋白として存在し,さらにSCLCに特異的なスプライシングバリアントはsheddingを受けやすいことが明らかになっており,有意な血清マーカーとして期待できる.次に,SCLC細胞の転移抑制効果をマウスモデルで検証するために、NCI-H69 細胞の尾静脈-肺への転移形成を安定に行えるようにする。そして、CADM1 機能阻害活性をもつヒト化抗体,又は,CADM1分子経路の機能阻害剤を用いて、ヒト SCLC 細胞のヌードマウス転移モデルにおける転移抑制効果を判定する。さらに近年、癌治療の新しい柱として免疫チェックポイントを標的とした癌免疫療法が急速に発展し、肺癌の分野では、構造的に免疫グロブリン・スーパーファミリーに属するPD-1が臨床応用されている。免疫グロブリン・スーパーファミリーに属するCADM1はCRTAMと結合して癌細胞の免疫応答に関与すること,腫瘍細胞に発現するCADM1は活性化したVγ9Vδ2 T細胞のCRTAMと結合してT細胞の細胞死を導くことが明らかにされた。そこで我々は、CADM1の細胞外領域が担う免疫応答に焦点をあて、小細胞肺癌の免疫抑制に関わる分子機構をCADM1-CRTAMの経路に基づいて解明する。さらに、抗 CADM1 ヒト化抗体を用いて、培養細胞やマウス実験系における小細胞肺癌の浸潤転移抑制を試み、新規治療法の開発を目指す。
<次年度使用額が生じた理由>各種抗体,プラスチック器具,一般試薬などの消耗品の多くはすでに購入済みのものがありそちらを使用したため,今年度新たに購入する必要がなくなった.繰り越した分は次年度の実験に必要となる消耗品を購入する予定である.<次年度研究費の使用計画>SCLC患者における血清中CADM1検出のためのELISA法の確立のために,各種抗体及び消耗品を購入する.血清の保存にはつくばヒト組織診断センターを利用する。CADM1下流分子経路の解析には,細胞培養関連試薬,PCR関連試薬,RNAi関連試薬,各種抗体,プラスチック器具,一般試薬などを必要とする.一方,マウスを用いた転移抑制モデルの解析には,マウス購入費,マウス飼育費を必要とする.さらに,研究成果の社会への発表の目的で,論文投稿費,英語論文校閲費,成果発表のための国内,外国旅費を必要とする.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (2件)
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