研究課題/領域番号 |
22K08973
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
坂部 友彦 鳥取大学, 医学部, 講師 (50639747)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 充実型増殖 / 腺房型増殖 / IASLC/ATS/ERS分類 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
多彩な病理形態学的な特徴を示す浸潤性肺腺癌は、腫瘍内に混在する癌細胞の増殖形態に基づいて複数の亜型に分類される。その中でも、腫瘍内に充実型増殖部や微小乳頭状増殖部を内包する患者は極めて予後不良であることが明らかとなっている。しかし、これらの組織亜型の形成・維持機構、効果的な治療標的は未だ不明である。本研究の目的は、予後不良な浸潤性肺腺癌組織亜型である充実型増殖部の形成・維持に関わる分子を明らかにすることで、浸潤性肺腺癌の新たな治療法開発に応用することである。 本年度は、これまでに報告してきた浸潤性肺腺癌における腺房型増殖部と充実型増殖部の遺伝子発現比較によって、充実型増殖部での発現増加が明らかになっている10種類の転写遺伝子について、これらの転写因子を安定導入した肺腺癌細胞株 (A549)を樹立した。安定発現株を用いた細胞増殖能の解析によって、4種類の転写因子の過剰発現によって細胞増殖能が亢進することが明らかとなった。さらに、ヒト肺腺癌組織の充実型増殖部において、これらの転写因子の発現が増加しているかを検証するために、外科切除によって摘出した29名の病理病期IA期の浸潤性肺腺癌患者の組織標本を用いた免疫組織化学を実施した。これまでに、8種類の転写因子に対しての染色を完了し、このうち6種類について画像解析ソフトQuPathによる染色評価を行うことで、腺房型増殖部と比較して充実型増殖部でタンパク発現の増加している4種類の転写因子を明らかにした。今後、残りの転写因子についても同様に、免疫組織化学による評価を行うことで肺腺癌患者における発現を検証し、肺腺癌細胞株を用いた解析結果と合わせて充実型増殖部のキーレギュレーターを探索していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は充実型増殖部に特徴的な遺伝子発現プロファイルから、充実型増殖部の形成・維持に重要なキーレギュレーターの候補を抽出して生物学的特性を解明するとともに、浸潤性肺腺癌患者の癌組織での発現を検証することを目標としていた。今回の検討で、4種の転写因子の発現増加が肺腺癌の細胞増殖能を増加させることを明らかにし、肺腺癌患者組織におけるタンパク発現を評価した6種類の中で、4種類の転写因子が充実型増殖部で高発現していることを検証できた。これらの結果から、我々の着目した転写因子群には充実型増殖部のキーレギュレーターが含まれており、今後新たな治療標的として肺腺癌治療法開発へ向けた研究に繋がることが期待できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
免疫組織化学によるタンパク発現評価が未実施の4種類の転写因子について、肺腺癌患者の充実型増殖部における発現増加を検証するとともに、今年度樹立した安定発現株を用いて浸潤能、薬剤抵抗性などを検討することで、肺腺癌の生物学的特性に対する同定転写因子の役割を明らかにする。さらに、担癌モデルマウス作製による評価も実施した上で、低分子化合物などの阻害剤を用いた効果検討によって、本研究で同定した充実型増殖部のキーレギュレーターが浸潤性肺腺癌に対する新規分子標的となり得るかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
タンパク発現解析において未実施の免疫組織化学について、消耗品代などが予定より少額となった。これらの予算は、研究計画に従って次年度の免疫組織化学、細胞を用いた分子生物学的解析に使用する予定である。
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