研究課題/領域番号 |
22K08983
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐藤 之俊 北里大学, 医学部, 教授 (90321637)
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研究分担者 |
山下 継史 北里大学, 医学部, 教授 (70406932)
三窪 将史 北里大学, 医学部, 講師 (90723940)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 肺癌 / 微小乳頭型肺腺癌 / がん幹細胞 / 転移 / 細胞株 |
研究実績の概要 |
微小乳頭型肺腺癌; micropapillary lung adenocarcinoma (以下MIP肺腺癌)は肺胞腔内で周囲に空間間隙を伴った小球状の腫瘍細胞集塊の存在を病理学的特徴とし,リンパ管浸潤および血管浸潤の頻度が高く予後が不良であるが,その機序は解明されていない.本研究では,申請者らが樹立したMIP肺腺癌の新規細胞株(KU-Lu-MPPt3)を用いて,悪性度関連因子,特に転移・浸潤に関連する機構を解明し,肺腺癌に対する治療法の開発につなげることを目的とする. KU-Lu-MPPt3は,付着と浮遊の2つの培養形態を併せ持つ.我々はこれまでにKU-Lu-MPPt3から接着細胞(adherent cells; AD cells)と浮遊細胞(clumpy and suspended;CS cells)を単離して両者の病理学的特徴やタンパク発現を比較し,MIP肺腺癌の特徴とCS cellsの特徴が類似することを見出している.さらに両細胞を用いたDNAマイクロアレイによる比較解析を実施し,AD cellsよりCS cellsで2倍以上発現が高い遺伝子を3882個同定した.本年度はその中から特にがん幹細胞遺伝子に着目して解析を行った. AD cellsとCS cellsの両者で,がん幹細胞マーカーを含む遺伝子(CD44,CXCR4,SOX2,SOX9,ALDH1a,ABCG2,LGR5等)の発現量解析を行ったところ,CD44,SOX2,LGR5においてAD cellsよりもCS cellsでの高発現を認めた.がん幹細胞マーカーの1つであるCD44は細胞膜貫通型接着分子で,腫瘍の増大・転移に関連し治療抵抗性を促進するという報告がある. AD cellsとCS cellsでCD44の選択的スプライシングによるバリアントアイソフォームに大きな違いを認めたことから,CD44がMIP肺腺癌の高悪性度に関わっている可能性があると考え,AD cellsにCD44をトランスフェクションして抗癌剤感受性試験を行ったが,感受性の変化は認められなかった.今後もがん幹細胞遺伝子を中心に解析を行い,MIP肺腺癌のがん幹細胞性と高悪性度の関連について探索を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AD cellsとCS cellsの両細胞間でDNAマイクロアレイによる比較解析を行い,AD cellsよりCS cellsで2倍以上発現が高い遺伝子を3882個同定した.本年度はその中からがん幹細胞遺伝子に着目して解析を行った.CD44, CXCR4,SOX2,SOX9,ALDH1a,ABCG2,LGR5等のがん幹細胞マーカーを含む遺伝子についてAD cellsとCS cellsの両細胞における発現量解析を行ったところ,CD44,SOX2,LGR5がAD cellsよりもCS cellsで高発現を認めた. CD44は細胞膜貫通型接着分子で,腫瘍の増大・転移に関連し治療抵抗性を促進するという報告があり,AD cellsとCS cellsでCD44の選択的スプライシングによるバリアントアイソフォームに大きな違いを認めたことから,CD44がMIP肺腺癌の高悪性度に関与する可能性があると考えて解析を進めた.CS cellsに対してCD44のsiRNAによるノックダウンを試みたが,発現抑制に至らなかった.これは一般的にも浮遊細胞を用いたsiRNAによるノックダウンが困難であることが理由であると考えられた.次に,AD cellsにCD44をトランスフェクションして抗癌剤感受性試験を行ったが,感受性の変化は認められなかった. しかしながら,本年度において,AD cellsを用いたトランスフェクションによる強制発現と抗癌剤感受性試験の一連の検討条件は定まったことから,おおむね順調に進展していると判断した.今後はがん幹細胞間関連遺伝子に関わらず,候補遺伝子について検討を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
DNAマイクロアレイによる比較解析結果を再度精査し,AD cellsとCS cellsの間で発現に差のある遺伝子の中から微小乳頭型肺腺癌の分子マーカー候補となる遺伝子や悪性度,特に転移・浸潤に関与する因子の同定を試みる.今後は,今年度と同様にターゲットとなる因子のトランスフェクションやノックダウンを行い,細胞増殖能,薬剤耐性,放射線感受性に与える影響を調査する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主に細胞培養に用いる消耗品,抗体,トランスフェクション試薬,抗癌剤感受性試験に用いる試薬に支出した.評価を行う因子に対する抗体やノックダウン試薬はその都度購入するが,解析に用いる試薬(トランスフェクション試薬,増殖反応測定試薬)は共通のため,すでに購入済みの試薬を継続的に使用した.次の解析のターゲットとなる因子を慎重に検討してからそれぞれの因子に特異的な試薬の購入をするため,その検討中であったことから次年度使用額が生じた.次年度は,本年度と同様に細胞培養や測定用の消耗品と候補となる遺伝子に特異的な抗体、試薬類の購入に充てる予定である.
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