研究課題
2020年の本邦での臨床使用が認可された長短時間作用型ベンゾジアゼピンであるレミマゾラムは従来のベンゾジアゼピン系鎮静薬よりも作用時間が短く、代謝産物にも薬理活性がないことから、麻酔後や集中治療室における鎮静時のせん妄発症を予防する可能性が期待されている。ベンゾジアゼピン系鎮静薬は血圧低下などの循環抑制が少ないため、従来は集中治療を要するような血行動態が不安定な患者に使用されてきたが、せん妄の発症リスクを増加させることが報告されて以降、使用を制限されるようになった。本研究はレミマゾラム投与によるせん妄の発症の有無を概日リズム中枢である視交叉上核(SCN)における時計遺伝子Per2に対する作用を含めて調査するものである。2022年度までにレミマゾラムによるマウスの3時間持続麻酔方法を確立し、行動概日リズムに対するレミマゾラム麻酔の作用を検討した。これまでの吸入麻酔薬を使用した報告と異なり、レミマゾラムは行動の概日リズム位相を変位させなかった。2023年度は視交叉上核のPeriod2遺伝子の発現リズムに対するレミマゾラム麻酔の作用を、Luciferase遺伝子が導入されたPer2::LUCマウスの視交叉上核スライス培養を用いて評価した。臨床使用に近い濃度ではレミマゾラムはPer2遺伝子発現に作用せず、行動リズムの結果を支持する結果が集積されつつある。また、real time PCRを使用した複数の時計遺伝子発現変化に関しても同時に測定しており、現時点では吸入麻酔薬に見られるよりも時計遺伝子発現に与える影響は小さいという結果が得られてきている。
3: やや遅れている
2023年度は昨年度の計画通り、レミマゾラムのPeriod2遺伝子発現に対する影響を評価した。Per2::LUCマウスを使用した方法とreal time PCRを使用した方法による実験を行っており想定よりも時間を要した。当初計画では時計遺伝子発現測定よりも先に実施する予定であったせん妄様表現に対する評価は2024年度に実施する予定であり、研究課題の遂行状況としてはやや遅れていると判断した。
レミマゾラムとミダゾラムのマウスに対する作用の違いから、麻酔条件を一致させることに難渋している。またヒトと異なり、マウスの血液中には多量に含まれるカルボキシエステラーゼがレミマゾラム代謝速度を増大させていることから、血中濃度測定も困難にさせている。一定の基準を設けてこれらを評価した上で各麻酔後24時間と72時間後のマウスの認知機能、精神運動障害、記憶障害を行動実験的に比較する必要がある。Per2エンハンサーであるノビレチンを使用したせん妄表現の抑制効果に関しては、レミマゾラムによるせん妄表現が誘発されるか否かによって実施の方向性を判断する。
研究の遅れに伴い未使用額がでているが、次年度は予定通り使用する計画である。
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