研究課題/領域番号 |
22K09045
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西脇 公俊 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10189326)
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研究分担者 |
藤井 祐 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (00718405)
田村 高廣 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (80612853)
森 厚詞 名古屋大学, 医学系研究科, 特任講師 (80771980)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経原性肺水腫 / 神経ペプチドY / 細胞透過性 / ラット脳死モデル / 腸換気法 |
研究実績の概要 |
我々は、神経原性肺水腫の発生において、肺交感神経終末にカテコールアミンと共存する神経ペプチドY(NPY)による神経性調節が細胞透過性に関与すること、および肺(気管支粘膜、平滑筋、肺胞毛細血管内皮細胞)における血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の発現が肺血管透過性亢進に深く関与していることを明らかにしてきた。 本研究の目的は、in vitro肺細胞透過性評価系とげっ歯類を用いたin vivo脳死誘発肺水腫モデル系を確立し、NPYやVEGFの作用機序を明らかにすることである。また、脳死患者の肺障害の予防・治療法の一つとして、「腸換気法」による肺保護効果についても検討する。本年度は、ラットから単離した肺胞上皮細胞を使用するin vitro肺細胞透過性評価系とin vivo脳死誘発肺水腫モデルの構築及び「腸換気法」の有用性の検討を試みた。 In vitro肺細胞透過性評価系には、ラットから単離した2型肺胞上皮細胞を1型肺胞上皮細胞に分化した初代細胞を用いることにした。しかしながら、2型肺胞上皮細胞の選択的回収がうまくできなかった。そのため、単離後の細胞分化、使用する培地、最適な細胞播種密度、細胞培養期間などについても検討できなかった。 In vivo脳死誘発肺水腫モデルは、ラット頭蓋内にバルーンカテーテルを挿入し、バルーン内に生理食塩水を注入することにより頭蓋内圧を上昇させ、脳幹部にヘルニアを起こすことにより作製した。同モデルからの気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid: BALF)採取法を確立し、サンプル中の総蛋白を含む生化学的検査法を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
In vitro肺細胞透過性評価系構築では、当初使用予定のヒト気管支上皮由来Calu-3培養細胞で作製した単層培養系で細胞透過を観察することが厳しく、アッセイ系として不適合と判断したため、ラット2型肺胞上皮細胞を1型肺胞上皮細胞に分化した初代細胞を用いることにした。しかしながら、2型肺胞上皮細胞単離操作がうまくできなかった。その原因は、単離手技に関する情報がほとんどないため、手探り状態で方法の検討していることにある。In vivo脳死誘発肺水腫モデルについては、ラットに脳死を誘発する方法および同ラットからBALFを採取する方法は習得できた。しかしながら、BALF中の総蛋白を含む生化学的検査、摘出肺のWet/Dry Ratioの測定法の確立、BALF中濃度を測定する物質(NPY、VEGF、サイトカイン類、総蛋白等)の選定、気管内薬物投与法の確立など、未だ検討すべき事項が多く残っている。そのため進行状況を「やや遅れている」とした。 「腸換気法」の有用性の検討に関しては、ブタの低酸素モデルを用いた実験において、腸換気により門脈血を有意に酸素化することにより全身の酸素化が改善し、同時に二酸化炭素の低減も得られ換気も改善することを実証し、論文に発表した。
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今後の研究の推進方策 |
In vitro肺細胞透過性評価系構築では、引き続きラット2型肺胞上皮細胞の選択的単離・1型肺胞上皮細胞への分化方法の確立を目指す。また、使用する培地、細胞播種密度、細胞培養期間などの検討・決定する。その後、ラット肺胞上皮細胞単層にNPYを添加し、NPYの細胞透過性亢進作用の再評価ならびにNPYのメカニズム解析を行う。ラット2型肺胞上皮細胞の単離が不可能であると判断した場合には、ヒトの気管支上皮細胞16HBE14o-での評価系構築を検討する。 In vivo脳死誘発肺水腫モデルでは、同モデルBALF中の総蛋白を含む生化学的検査、摘出肺のWet/Dry Ratioの測定法の確立、NPY等のBALF中濃度を測定する物質の選定、気管内薬物投与法の確立、肺傷害の組織学的解析法の確立を試みる。これら検討の完了後には、脳死誘発肺傷害に対するNPY受容体アンタゴニストの抑制効果の有無を評価すると共に、他の抑制効果を有する薬剤の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
In vitroおよびIn vivo評価系構築共に、進捗が遅れ、未達成の検討事項が多くなったことから次年度使用額が発生した。今後の研究推進方針に則ってin vitro(セルカルチャーインサート、培地、血清、試薬等の購入)とin vivo(動物、試薬、アッセイキット、生化学分析装置用カートリッジ、抗体等の購入)の実験を行うことにより、交付額相当の経費が必要となる。
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