研究課題/領域番号 |
22K09139
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北村 哲久 大阪大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (30639810)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 救急医学 / 蘇生科学 / 院外心停止 / 臨床疫学 |
研究実績の概要 |
研究1年目となる令和4年度には、研究代表者ならびに研究協力者は、16施設から平成24年(2012年)7月~令和2年(2020年)12月までの8年半の期間の21,100症例のデータセットを構築した。 2012年から2019年までのデータセットを用いて、病院搬送後に体外循環式心肺蘇生(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation: ECPR)が実施された517症例を対象に、日本におけるECPRを院外心停止患者に導入するときの基本的な3つの基準(初期心電図が心室細動、病院までの時間が45分以内、年齢75歳未満)に基づき、発症1ヶ月の社会復帰について比較検討した。311人(60.2%)が3つの基準をすべて満たした。基準を満たさないか1つの基準を満たす患者の社会復帰は2.3%(1/43)、2つの基準を満たす患者8%(13/163)、すべての基準を満たした患者16.1%(50/311)であった。また、病院搬送後に自己心拍再開が得られた非外傷性4,415症例を対象に、病院到着時のBUNとCr比(blood urea nitrogen to creatinine ratio: BCR)値と発生1か月後の社会復帰との関係を評価した。BCRが高い場合(BCR≧20)も低い場合(BCR<10)も、正常なBCR(10≦BCR<20)と比較して、特に心原性OHCA患者において社会復帰が不良であることと関連した。 研究はおおむね順調に進んでおり、上述の2報告については論文として発表することが出来た。本レジストリでは、毎年約2,000件の症例追加が見込まれている。今後もこの大規模なレジストリを用いて、バイオマーカーや病院搬送後の院外心停止患者に対する高度集中治療の効果についての様々な解析を実施する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目となる令和元年度において、2012年7月~2020年12月までの8年半の期間の、大阪府下の救命センターを中心に16施設から集積された院外心停止症例の病院搬送後データクリーニングを実施し、消防庁から提供された病院前救護記録と結合させた21,110件のデータセットを構築した。 2012年から2019年までのデータを用いて、ECPRが実施された517症例を対象に、日本におけるECPRを院外心停止患者に導入する際の基本的な3つの基準(初期心電図が心室細動、病院までの時間が45分以内、年齢75歳未満)に基づき、発症1ヶ月の社会復帰について比較検討した。311人(60.2%)が3つの基準をすべて満たした。基準を満たさないか1つの基準を満たす患者の社会復帰は2.3%(1/43)、2つの基準を満たす患者8%(13/163)、すべての基準を満たした患者16.1%(50/311)であった。また、病院搬送後に自己心拍再開が得られた非外傷性4,415症例を対象に、病院到着時のBCR値と発生1か月後の社会復帰との関係を評価した。BCRが高い場合(BCR≧20)も低い場合(BCR<10)も、正常なBCR(10≦BCR<20)と比較して、特に心原性OHCA患者において社会復帰が不良であることと関連した。ECPRに関する研究はResuscitation誌、BCRに関する研究はJournal of Cardiology誌にそれぞれ発表した。 また、日本救急医学会の同じ項目を有するより大規模なデータベースを用いて、ECPRの有効性を評価するために時間依存性プロペンシティスコアマッチング法を用いて、ECPR施行有無と院外心停止発生1か月後生存との関係を評価し、共同研究者が2022年11月の米国心臓学会にて発表を行い、現在は論文化を準備中である。それゆえ、研究はおおむね順調に推移していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
院外心停止患者の社会復帰率は約3%に過ぎず、有効な予後因子の探索ならびに評価し、個別化医療に役立つエビデンスを生み出すためには症例を集積し続けるしかない。令和5年4月現在、令和3年(2021年)に発生した大阪府下の救命救急センターからの約2000件のデータは既に集積しデータクリーニング済みであり、消防庁から2021年の院外心停止患者の病院前救護情報も取得し、これらのデータ結合を実施し、2012年7月~2021年12月までの約23,000件超のデータセットの構築を行う予定である。上述の院外心停止会者へのECPRの有効性を評価する研究の論文化を進めるとともに、研究代表者はこの大規模データを用いて、救命救急センターに搬送される院外心停止患者の詳細な心停止原因の評価や大阪と諸外国との患者の特徴や転帰を比較する解析の準備を進めている。加えて、その他のバイオマーカーや高度集中治療の効果についての探索的評価や機械学習を用いた解析も予定している。 平成24年(2012年)7月大阪府下の救命救急センターで始まったこの院外心停止患者レジストリは、平成26年(2014年)6月から日本救急医学会による学会ベースのレジストリに拡大し、全国レジストリとして約100施設から2014年から2020年までの症例約68,000症件が分析可能となっている。日本救急医学会とも連携を図りながら、様々なリサーチクエスチョンに対して機械学習など多面的な方法も用いたアプローチも行う。また、病院前救護における院外心停止患者の予後に関連する様々な因子についても多くの研究課題があり、これら研究課題についても集積されたデータ解析、論文化を進めて行く。研究成果の発信方法としては、英語原著論文、国内ならびに国際学会での発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
投稿予定の論文が複数あったが完成に時間を要したため、校閲料ならびに掲載料として次年度に繰り越した。それゆえ、校閲料ならびに掲載料として使う予定である。
|