研究課題/領域番号 |
22K09160
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
朴 恩正 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (20644587)
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研究分担者 |
川本 英嗣 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (20577415)
島岡 要 三重大学, 医学系研究科, 教授 (40281133)
赤間 悠一 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (40763313)
高娃 阿栄 三重大学, 医学系研究科, 助教 (50643805)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 敗血症 / 腸管上皮細胞 / 細胞外小胞 / マイクロRNA |
研究実績の概要 |
敗血症はバクテリアなどの微生物とその副産物などの過度な流入に対して宿主免疫の対応失敗に起因し多臓器機能不全に至る死亡率の高い深刻な全身性炎症疾患である。敗血症は全身組織的炎症性症候群で、腸は敗血症の時に炎症促進因子を腸管膜リンパを通して全身に送らせ全身性炎症反応をより悪化させ多臓器機能不全症候群のモーターとも知られている。さらに、敗血症のダメージにより腸管上皮のバリア機能の不全が主要な病理学的状態であり生存率にも悪影響を与えると考えられる。我々は、腸管上皮細胞由来の細胞外小胞であるエキソソームやマイクロRNAが、腸管組織だけでなく他の臓器での炎症反応に対しての正・負の制御に様々な影響を及ぼすというダイナミックな機能を発揮する可能性について論じた。このように、敗血症における、腸管上皮細胞の様々な作用機序の解明が重要視されている中、その遺伝子制御ネットワークのエピジェネティック変化については不明である。本研究課題において、慢性敗血症研究モデルの1つである、糞便懸濁液を腹腔内に投与し敗血症を起こす腹膜炎型慢性敗血症モデルシステムを導入・樹立した。私たちは、マウスモデルから腸管上皮細胞を分離してRNAを抽出してSmall RNAライブラリー作製を行いシークエンス解析を通じてマイクロRNAやメッセンジャーRNA(mRNA)のプロファイルを分析して、敗血症に伴い腸管上皮細胞の遺伝子制御ネットワークの包括的な変化や炎症抑制性・炎症誘発性の遺伝子発現変動への可能性を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
敗血症における腸管上皮細胞のエピジェネティックな遺伝子発現・制御プロファイルを分析した。数的には、検出された239マイクロRNAの中、敗血症により、14マイクロRNAが増加し、9マイクロRNAが減少した。特に、敗血症により増加したマイクロRNAの内miR-149-5p、miR-466q、miR-495、miR-511-3pにより遺伝子制御ネットワークのリモデリングが行われたことが分かった。さらに、これらのシグネチャー・マイクロRNAの中でも、miR-511-3pは、この敗血症モデルにおいて腸管上皮細胞だけでなく血液の中でも有意義な増加が検出され、診断マーカとして今後敗血症患者さんからの血液検体のようなリキッド・バイオプシーでこの疾患のバイオマーカーとしての検討必要性が提案された。また、腸管上皮細胞のmRNA発現プロファイルは、敗血症に伴い612 mRNAsが増加、2248 mRNAsが減少し発現制御された遺伝子の量的なバイアスが見つかり、その中LOX、PTCH1、COL22A1、FOXO1、HMGA2のようなターゲット遺伝子の発現が上記4つのマイクロRNAにより制御され、抗炎症性や炎症促進性の双方の経路を誘導すると考えられた。したがって、本研究課題で使われた敗血症モデルにおいては、特定のマイクロRNA群が腸管上皮細胞で誘導され、エピジェネティックな干渉作用によって炎症反応に働く機能的なmRNAの発現パターンを包括的に変動するということが予想された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、敗血症による炎症反応が持続的で慢性的な炎症と抑制的な炎症の双方の経路の誘導可能性が予想され、この結果より、敗血症で見られる宿主免疫反応のパターンと相応性があると考えられたが、分子細胞学的な検討することは出来なかった。したがって、例えば、シグネチャー・マイクロRNAの1つであるmiR-511-3pのミミック(mimic)もしくは阻害用antagomirをヒト由来の腸管上皮細胞株の細胞内に導入する実験を行い、本研究で確認した分子マーカー群の発現パターンの結果を参考資料にして、そのターゲット分子との相互作用を分子・細胞生物学的に解析して、未知の分子相互作用の機構を解明することとか、このシグネチャーマイクロRNAの新しい機能をヒトの腸管上皮細胞株とか白血球細胞株のような他の細胞を用いて検証し得る。さらに、分子候補群を臨床サンプルを用いて分子マーカー発掘に利用することも、今後の研究計画に含まれ得るし、さらには、敗血症治療の改善に向けての新たな基盤研究の構築に役立つと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
定量PCRを行うために必要な一部の試薬について、代表研究者が個別で発注するのではなく必要な量を研究室で一括して購入する方法で実施した結果、当初計画より経費を節約することができたため、未使用額が発生した。本研究課題の遂行における定量PCRの実験は次年度にも行う予定であるので、発生した差引額については、次年度に定量PCRの実験に必要な試薬の発注に使用する予定である。
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