研究課題/領域番号 |
22K09191
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
射場 敏明 順天堂大学, 医学部, 教授 (40193635)
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研究分担者 |
林 宣宏 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (80267955)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 熱中症 / 腎障害 / バイオマーカー / 横紋筋融解 / 急性尿細管障害 / 鉄関連タンパク質 / ミオグロビン / シスタチンC |
研究実績の概要 |
本研究では軽度から中等度の熱障害に焦点を当て、特に腎障害と関連するバイオマーカーを検索することを目的とした。 その結果、研究期間中に当院で治療を実施した熱中症が疑われる18歳以上35名において血液検査を実施することができた。そこでこれらの症例を、シスタチンベースの推定GFR(eGFRcys)値に基づいて腎障害群(eGFRcys<60mL/min/1.73m2)と非腎障害群(eGFRcys≧60mL/min/1.73m2)の2群間に分け、それぞれ炎症、凝固、骨格筋損傷マーカーを測定し、腎障害の早期発症に関連するマーカーを検討した。 結果:35名の熱関連疾患のうち、10名が腎障害と診断された。両群間において臨床症状、尿比重、血清BUNで推定される脱水状態に関しては差が見られなかった。次に血中マーカーに関しては、白血球数は腎障害群で多かったが(P < 0.01)、CRPとインターロイキン-6の値に関しては群間で有意差がみられなかった。血症板数、プロトロンビン時間、D-dimerなどの凝固マーカーには統計学的に有意な差は認められなかった。IL-6, CRPなどの炎症マーカーやヘム、ヘモペキシンなどの鉄関連タンパクなどについても両群間で有意差は認められなかった。一方、骨格筋損傷のマーカーであるミオグロビンは腎障害群で高値を示し(P < 0.01)、クレアチンホスホキナーゼ(P < 0.05)よりも早期腎障害との強い関連を示した。 したがって今回のバイオマーカーにおける検討においては軽度から中等度の熱関連疾患における急性腎障害は、ミオグロビンによる尿細管障害の主たるメカニズムと考えられる。したがって臨床的にはミオグロビン濃度の測定により、熱関連疾患による急性腎障害のリスクのある患者を同定し、その発症に先んじて積極的な腎保護戦略をとることが可能であると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究では予定したスケジュール内に臨床検体を集積し、臓器障害の有無によって、当初予定していた炎症性マーカー、凝固マーカー、鉄関連タンパク質、横紋筋障害関連マーカーの測定を実施し、これらを比較することが可能であった。その結果として、当初の想定とは異なり、IL-6などの炎症マーカー、ヘム、ヘモペキシンなどの鉄関連タンパク、D-dimerなどの凝固マーカーについては腎障害例においても変化がみられなかったが、これは対象例の重症度によるものと考えている。一方、当研究においては継時的に複数の検体が得られた症例において、プロテオーム解析を実施して、一般的な血液検査項目以外の新規バイオマーカーを検索することを目的としていた。こちらに関しては現在共同研究者の研究室において解析が進められており、今後順次結果が得られる予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
熱中症においては、診断、重症度判定を行うための有用な指標が存在せず、現時点では臨床医の経験的判断に頼らざるを得ない状況である。本研究におけるこれまでの結果から、臨床的に熱中症における腎障害の発生予測にはミオグロビンの測定が有用であることが確認された。一方、そのメカニズムを検討し、さらに新規バイオマーカーを開発していく上ではプロテオーム解析結果が必要である。すでに得られた一部の結果では、熱中症前後で変化率の大きなタンパク質として、α1-アンチトリプシン、α2-マクログロブリン、補体関連タンパク質、などが同定されたおり、腎障害の発生に関しては、尿細管上皮細胞における炎症性変化が関与している可能性が示されている。今後さらに解析を進めていくことにより、熱中症における急性腎障害の発生メカニズムの解明、さらに新規バイオマーカー候補のリストアップが可能になることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費については、未測定検体に必要なコストと、追加検討項目の測定に必要なコスト分である。
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