研究課題
これまでの研究を通じて、IDH 変異がもたらすNAD+代謝は、DNA修復機構変化に影響を及ぼすことを見出してきた (Tateishi K et al. Cancer Res. 2017, Cancer Cell. 2015)。このDNA修復機構変化がIDH 変異神経膠腫において高率に生じる、temozolomide (TMZ)治療後のDNA高変異状態 (DNA hypermutation, HM)化と腫瘍の悪性化に関与しているものと仮説を立てている。そこで本研究ではIDH 変異神経膠腫を対象とし、自身らが独自に樹立した世界最多レベルのIDH 変異神経膠腫細胞株を用いて、TMZ治療後に生じるHM化と付随する悪性転化促進機序の解明を図る。これによりIDH 変異神経膠腫の悪性転化を回避する治療法を創出すること、また既にHM化を呈したIDH 変異神経膠腫に対する治療アプローチとして、HM化を標的とした新規治療法の開発を研究目標に掲げ様々な手法を用いた検討を行っている。具体的にはHMをリアルタイムでモニタリングできるシステムの開発、またHMを標的とした治療法の開発を見据えた研究を展開している。
2: おおむね順調に進展している
内因性のHMを有するIDH1 変異神経膠腫細胞株 (YMG6) の樹立に成功しており (Tateishi K et al. Clin Cancer Res. 2019)、また主要なMMR遺伝子であるMSH6 を抑制した外因性IDH変異グリオーマの安定細胞株を樹立し(Tateishi K et al. Cancer Res. 2017)、この細胞株に対してTMZを長期投与させることで外因的にHMを発現させたIDH1 変異神経膠腫細胞株の樹立に成功した。これはIDH 変異神経膠腫における世界初の外因性HM誘導モデルである。これらの細胞株を樹立したことで、TMZ治療後の経時的なHM移行プロセスが検証可能となり、同時にHMを呈したIDH 変異神経膠腫に対する、新たな治療法の開発を行う研究基盤が確立された。また申請者らはIDH2R172K 変異神経膠腫モデル (YMG25R)の樹立にも成功している(Tateishi K et al. Acta Neuropathol Commun 2023)。これらの研究素材を最大限に活用することで、IDH 変異神経膠腫において好発するHM形成機構の全容解明に繋がる研究成果が得られることが期待される。現在これらのモデルを用いて解析を進めている。
前述のモデルを用いて放射線治療、アルキル化剤を中心とした化学療法後のDNA修復機構の検討を進めている。特にIDH変異が有する代謝脆弱性に注目し、PARPを基質とするbase excision repairなどのDNA修復機構がどのように活性化するか、またHM化に影響するかを、whole exome sequencing、RNA-sequencingやwestern blottingなどの手法により検討している。またNAD+代謝異常がHM化に及ぼす影響を検証するためNAD+の中間代謝産物であるnicotinamide mononucleotide (NMN)補給によりHM化が抑制されるか検討している。同時にHMをモニタリングできるシステムの開発、HMを標的とした治療法の開発を見据えた研究を展開する予定である。
次年度使用額として84,598円を計上する。これは動物実験計画の変更に伴うものであり、動物実験に要する費用として次年度の活用を予定している。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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