研究課題/領域番号 |
22K09218
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
深見 真二郎 東京医科大学, 医学部, 准教授 (80349498)
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研究分担者 |
永井 健太 東京医科大学, 医学部, 助教 (50617678)
河野 道宏 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (50718707)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / 光線力学的療法 / 腫瘍縮小効果 / 動物実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、悪性頭蓋内腫瘍に対して開頭手術を必要としない光ファイバーを用いた低侵襲な新規光線力学的治療法(PDT)を確立することである。 治療効果は腫瘍培養細胞をマウスとラットなどの実験動物に移植することにより証明する。まずは脳腫瘍の中心から励起光照射することによる腫瘍縮小効果を検討するために、免疫不全マウスおよび免疫保持マウスの皮下に悪性脳腫瘍細胞を移植したモデルを作成し、talaporfin投与後に光ファイバーを腫瘍実質内または腫瘍組織表面に誘導し、PDTによる腫瘍細胞増殖抑制効果を病理学的、生化学的に比較・検討する。脳腫瘍細胞株としては広く使用されており疾患モデル細胞として確立されているラット悪性グリオーマ株(C6)を用いる。これらの細胞株のマウス皮下移植を行い、コントロール群、組織内留置照射群2群に於いて、経時的な腫瘍増殖曲線を描くことにより、光ファイバー下での組織内照射の腫瘍細胞殺細胞効果を示す。投与するtalaporfin濃度とレーザーのエネルギー量をパラメータとし腫瘍殺細胞効果の範囲を検討する他、投与してから照射するまでの時間についても検討を行う。PDTにおいて照射時間および照射強度を上げると腫瘍細胞殺傷効果も向上するものの、周辺組織血管内での副次的なPDTが起こり、血栓傾向をきたすことが臨床的に知られているため、周辺組織でのPDTによる血管内血栓を病理学的に評価し、最も副作用が少なくかつ効果的に腫瘍縮小効果をもたらす条件を見出す。マウス皮下移植モデルで実験系の確立・腫瘍効果の確認後にはラットの頭蓋内移植モデルを構築しより臨床に即した治療をおこなう。動物実験での治療法の確立後は臨床治療に向けて、より安全かつ治療効果の高いレーザーの出力条件・薬物濃度を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本教室ですでに確立している悪性脳腫瘍細胞株のマウス皮下移植モデルを用い、光ファイバーを用いた光線力学的療法(interstitial PDT:iPDT)の実験を行った。同モデルに対するtalaporfin至適投与量を決定するために、talaporfin腹腔内投与後の生体内動態をtalaporfinの蛍光度により測定し(IVIS Imaging System)、投与量は10mg/kgが最適であることは予備データより判明していた。マウス下腫瘍移植モデルに対して、3Dプリンターにて作成したマウス縫合固定用器具を用い、光ファイバーを腫瘍内部へ正確に留置する。使用小動物は免疫不全マウスおよび免疫保持マウス双方にて行ったが免疫保持マウスでは移植腫瘍の安定性が低かったため、免疫不全マウスを用いて実験を継続した。Cyber laserを用いた波長 664nm のレーザー照射を北里大学医療衛生学部医療電子工学研究室と共同開発した直径0.8mm、発光帯2.0mmの拡散プローブにて行った。照射条件は異なるパワー、密度、照射時間で検討した。その結果100J/cm2と50J/cm2では有意に100J/cm2の方がiPDT効果面積の範囲が有意に広く、残存腫瘍面積も縮小を認めた。また同一のパワー密度の場合、100J/cm2ではエネルギー密度を抑え長時間照射した方が優位にi-PDT効果面積は広く、残存腫瘍の面積は縮小していた。病理学的検討では光源近位部では非常に強いapoptosis変化が認められ周囲のPDT効果が中等度な部位では血管内皮障害とフィブリン血栓が確認されvascular shutdown効果が殺腫瘍効果一部を担っていることが示唆された。 以上の結果を国内学会(日本脳神経外科光線力学学会等)にて発表し、現在は論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ラット頭蓋内移植モデルでのファイバー挿入技術の確立を行っている。しかしながら、尾状核付近への安定した腫瘍移植ができておらず、同部位へのファイバー誘導も困難な状況である。今後はラット脳実質内への腫瘍移植やファイバー誘導を同一部位に留置するため、頭蓋骨に安定に固定できるシースを3Dプリンターにて作成を行い、ラットでのiPDTの条件や抗腫瘍効果を確認する。マウスではIVIS Imaging Systemを用いたtalaporfinの体内分布が個体全体で把握することができるが、ラットでは個体全体での評価が困難なため、断頭後の頭部のみでの評価を行う。ラットの研究では免疫保持個体の分析が可能と予想され、抗腫瘍効果の確認のみならず、腫瘍免疫の分析を行う予定である。本教室では以前よりPDTによる腫瘍免疫マクロファージ(TAM)に注目しており、ラット脳内でのM2マクロファージの動向につき分析を行う。 現在学会発表関係ではマウス実験結果の論文投稿や2023.7月にフィンランドで開催される国際学会(18th International Photodynamic Association World Congress)で発表予定である。 その後は、臨床への橋渡し研究として、現在悪性脳腫瘍に対する顕微鏡摘出術中に行うPDTで使用されるtalaporfin濃度での効果判定や、ファイバーの腫瘍への誘導方法の検討を行う。誘導方法はファイバーや内視鏡が通るシースを定位的に腫瘍直前まで誘導し、直接ファイバーを挿入する方法や内視鏡下でファイバーを腫瘍内に留置する方法などが考えられる。また、肺癌や食道癌で用いられている内視鏡を用い腫瘍表面へのファイバー照射の条件設定を確立する。以上の様に現在、臨床で用いられる薬物濃度・投与量、機器を用いることにより、より早期の臨床応用を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画の予定通りマウス大腿皮下への移植実験が一旦終了し、2022年度後半になりラット頭蓋内への腫瘍移植実験を開始した。当初の予想よりラット頭蓋内への定位的移植が困難であったことや、移植した同一部位へのファイバー誘導が不安定であったことより固定器具を様々試用し、最終的に3Dプリンターにて固定具を作成した。この期間は実験動物や培養細胞の使用が少なくなったために、同年では予算をすべて使用することなく次年度使用額が生じたと考えられた。その為、元々使用を計画していた実験動物や移植実験用の器具の予算が次年度に繰り越された為、次年度で同予算を使用する予定である。
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